実は、前回ご紹介したガブ期でも、Foxtrot までと、Selling England By The Pound では、大きな変化があります。

ジャケットのイラストレーターが変わったこともそう。
しかし重要なのは、音楽性の面で変化が現れたこと。

これはよく言われることですが、ガブと他メンバーの確執。
これはラムでのことだと言われてますが、実はSelling England By The Pound からすでに発生していたのではないか。

ひとつはガブのポップス志向の表れ。
I Know What I Like で顕著ですが、シンプルな短いキャッチーな曲を加えたがった。

もうひとつは、他のメンバーのインスト志向。
経験を積むたびにテクニックが身についてきたこともあり、インストパートの強化とそこでの自己表現がしたくなってきた。

結果、今までの流れの曲は他のメンバー(特にバンクスとハケット)が創りたい、複雑かつ演奏重視の曲として、数曲。
もちろんガブも演劇的なテーマをもった曲はやりたいので問題なし。
そこに I Know What I Like のような曲が入り始めた。

ここからジェネシスの中に、亀裂が見え始めたと思っています。
やりたいことをしながらグループをコントロールしたいガブ。
音楽上のイニシアティブを取り始めた他のメンバー。

その亀裂が一気に表面化したのが、The Lamb Lies Down On Broadway だということ。

このアルバムはそれまでのアルバム、それ以降のアルバム、どれとも似ていません。

それはこのアルバムほど、曲ごとにキャラを強く打ち出し、アレンジもシンプルで、1曲の尺が短いジェネシスは初めてだ、というところに顕著です。

まるで、1曲ごとにシングルカットを狙っているかのような構成。
そしてそのすべての曲がひとつのストーリーに基づいて創られている。

おそらく、ガブがもう一度アルバム全体でのリーダーシップを取り返したかったこと、ストーリーありきということは歌詞が必然的に多くなるので、展開に合わせて曲を細切れにせざるを得なかったこと、それが結果的にインスト部分の縮小という結果になったこと。

アルバムでの曲作りの分担ははっきりしませんが、他の4人はこのアルバムにおいて、アレンジャー兼演奏家のポジションが中心だったのだと思います。

しかしこのことがこのアルバムの曲に、異様なまでのバリエーションをくっ付けた。
これだけたくさんの曲が収録されているのに、どの曲も他の曲と似ているものがありません。
ここまで多様な曲作りができるグループが他にあるでしょうか。

メンバー間の力関係のねじれが、カブの思い込みが、それぞれの個々の潜在力が、破裂してできた傑作がこのアルバムだと思います。

こういった経緯で成り立っている時期は、一瞬で終わるのが宿命です。
軋轢が打ち上げた、奇跡ともいえる花火。

これをもってラム期が終焉します。

究極の9曲にも取り上げた、Lamia 。

この時期のジェネシスにしか創りえなかった、ジェネシスの曲の中でも最もシンプルな美しさをもった曲です。