レコード。

それはCDでは味わえない、幸せな時間を与えてくれます。


昔から、何千回も繰り返してきた作業。

棚に並んだレコードジャケットの背中たちの中から、その微妙な色具合だけで、目指すレコードを探し当てる。

レコードのジャケットは背中にタイトルを書いてないのも多い。

しかし、ジャケットをなめまわすように何度も見てるから、その棚の背中たちで描かれる模様のグラデーションまで憶えてしまったりしている。


これだ!と居合抜きのように、引きぬかれたレコード。

やはり思ったとおり、これだったな。

すこし口元をにやけさせながら、表のビニールカバーからジャケットを取りはずす。

左手にジャケット、右手にビニール。引きぬく。


左手に残ったジャケット。

ここでダブルジャケットの場合、必要もないのに中面を開いて見たりする。


レコードが入ってるところにおもむろに右手をつっこむ。親指と人差し指だけ、第一関節付近まで。

二本の指は、レコードが入ってる中袋(国内版の場合は薄い半透明のビニール、輸入盤の場合は紙袋だったりする)をつまんで引き出す。

早すぎもせず、遅すぎもせず、滑らかなスピードで。


人によっては、国内版の中袋の端を折ってたりするので、その場合は中袋の上からレコードをつまみます。

ちなみにオレは、折り目のカドがレコードを傷つけそうな気がしたので、折らない派だ。


いよいよ作業も佳境に入ってきた。


右手を中袋の中に、こんどは奥深くまで差し入れる。

手の平は上。

袋に入ったと同時に、5本の指は、いつの間にか軽くカギ状に曲がっている。

なんと、親指の頂点と、薬指の頂点の距離が、いつの間にかレコードの半径とピッタリ同じになっているではないか。


そのまま薬指の先はレコードの中心の穴に、親指の腹はレコードの側面を押さえた、とおもった瞬間に、シュッと音がしたと思ったら、いつの間にかレコードは中袋の外に出ている。

右手の親指と薬指の上に、絶妙なバランスで鎮座するレコード。


考える隙も与えず忍び寄ってきた左手は、その手の平をレコードの側面に軽く押しあてられる。

その動きとまったく同時に動き出した右手は、親指の腹を支点に薬指が離れ始め、直後に右手の平は左手の平とまったく左右対称のポジションをとった。


すでに視線は、レコードの中心のラベルを凝視している。

こっちはA面か、B面か。

聴こうとしてるのはどっちだ。


ちがう!反対側だ!と思った瞬間。

右手と左手は連動しながら、レコードの直径の反対側をそれぞれの支点にしながらレコードを180度回転させてみせた!

直後、見事に望みのラベル面をこちらに向けているレコード。


再び口元に不敵な笑いをうかべながら、レコードプレーヤーの方に足を向ける。

いよいよスタンバイが開始される。


レコードをターンテーブルに載せる。

そーっと。

簡単ではない。

なぜなら、ピンに一度でレコードの穴を通さねばならないからだ。

一度で入らないと、穴の周りにはピンをこすったことによる、ためらい傷が付きまくり、そのレコードの中古屋での査定ポイントが1ランク下がるからだ。


よし、入った。

ターンテーブルのスタートボタンを押す。回転が始まる。

カートリッジのついたアームのフックを右手の親指と人差し指でつまみ、そーーーっとレコードの端にポジションさせる。

レコード盤との距離はおよそ10ミリ。

目標となる落下地点の幅はおよそ5ミリ。

はずすわけにはいかない。

リフターのクセで、落下地点がやや外側になりがちなこのプレーヤーなので、無音部分と1曲目の境目から1.5ミリの地点に落とすことにする。


DOWNボタンを押す。

スーッ。

パチパチ・・パチ。

よし、無音部分のスクラッチノイズが聞こえ始めた。

ランディング成功。


なにか達成感とともに、プレーヤーのアクリル製のふたを静かに閉め、ジャケットを持ち、リスニングポジションへ。


静かに流れ始める美しいメロディー。


バチッ、バチッ、バチッ!


ギャー、傷がついてる~!