無防備であるほど、衝撃を受けるとダメージが大きくなります。

その日から上高地にうなされることになった私は、1ヶ月後にまた上高地を訪問する決意を固めます。


問題は、すでに雪に閉ざされ閉山してしまっていることです。閉山と言っても完ぺきに人が締め出されているわけではなく、メンテナンスのためなどに徒歩で入ることは可能です。冬山登山家も通過します。

でも私は多少の登山経験があるだけのど素人です。


その季節の上高地に入るためには、

・チェーンを装備したクルマで沢渡まで行く。(ここから先は冬季通行止め)

・雪山装備になり、徒歩で中の湯(岐阜方面との分岐点)まで行く。

・もちろん電気など灯いていない真っ暗やみの釜トンネルを抜ける。

・さらに雪山同然のルートを上高地まで歩く。


ことが必要になります。こんなバカげたプランには同行者などいるはずもないので、単独行です。


しかし、上高地菌に頭を侵され、静謐としかいいようのない冬の上高地の風景までも写真集で見てしまった私は、計画を実行することしか頭にありません。


さすがに東京から日帰りでこの全行程をこなすのは不可能なので、どこかに1~2泊することが必要。

そこで中の湯に1軒だけある旅館を選択。

実はこの安房峠越えのルート、今では岐阜方面へのバイパスが通り、1年中クルマでの通行が可能。そのため、中の湯の旅館も道路拡張工事に伴い移転しています。今回ここで述べている話は、そのバイパスが通る前、この付近が通行の難所だった時代の話です。


当日は中央高速の諏訪付近ですでに小雪まじり。

クルマの中では、StingのNothing Like The Sun。 Lazarus Heart。


松本で降り、国道を上高地方面に向かう中、だんだんと雪が本降りに。そりゃそうですよね、雪山のメッカに近付いているんですから。沢渡につくと、一面の雪景色。すでに30センチはあるでしょうか。

駐車場管理棟の軒先にクルマを停め、冬山モードに着替えます。

この日のためにいろいろと揃えました。防寒着上下。スパッツ。登山靴。アイゼン。防寒用手袋。ストック。ヘッドランプ。

一通り身につけ、出発。通行止め用の柵の脇を通り抜け、雪に埋もれた車道を歩き始めます。



煩悩の日々

降雪。無音。自分の足音だけが聞こえる。

頭の中ではNothing Like The Sun。 Englishman In New York。


クルマではほんの10分程度の道のりを、雪を踏みしめながら2時間かけて、中の湯到着。

今日の移動はここまで。もちろん客は私ひとり。あとは温泉に入り放題。


静寂。極寒。漆黒。静寂。Be Still My Beating Heart。


つづく~