旅行先の景色や風土と、音楽が強く結びついて、切っても切り離せないものになることありませんか。
そこに自分がいた時の空気、光、風、風景、感情。それらに溶け込むように、音楽が一体化することがよくあります。
北アルプス、上高地。
標高1500メートルのこの世の別天地は、北アルプスの急峻と、清流・梓川の滔々と流れる透明な水と、色鮮やかで荒々しい自然に囲まれた、神々しい場所。
クルマで直接行くことはできません。必ず、ふもとの沢渡という場所でクルマと止め、バスに乗り換えます。バスは、沢渡から山間を抜けて、岐阜県方面への分岐点で信号待ち。その先には、斜度20度を超える交互通行の名物「釜トンネル」があります。通過可能な時間が40秒、待ち時間が10分とかいう(定かではない)、めったにお目にかかれないトンネル。そこを抜ければ、上高地の入り口となります。あとは5~10分程度の乗車で、上高地の降車場に到着。交通機関はここまで。あとはひたすらの歩きとなります。
そういう上高地に初めて行ったのがある年の秋。上高地は冬は雪で閉ざされるため、釜トンネルから先は11月上旬~4月下旬まで道路が閉鎖されます。事実上の閉山期です。
この閉山期の直前、すでに紅葉は終わり、雪も降り始めた11月初旬に、初めて上高地を訪れました。
すでに観光シーズンは過ぎています。そして上高地の素晴らしさを聞いて、それを体験しにきたわけではありません。旅行好きが、単なる目的地として設定していただけでした。葉は落ち、緑はくすぶり、東京とは比べ物にならない寒さ。そこに、上高地が存在していました。
なんという場所でしょう。豊かな水量をたたえる限りなく透明な急流の梓川。厳しくも鮮烈な空気。そして雲の合間に姿を現した、雪を抱いた穂高連峰。雲は次第に切れてゆき、穂高の稜線に積もった雪と鮮烈なコントラストを描く、深く抜けるような青空。
言葉を忘れ、立ち尽くすことしかできません。
上高地に出会ってしまった瞬間でした。
つづく
