2022年浜風2月句会 選者特選句の感想
到着順 ( )内は選者
憎しみをさらりと消しぬ春の雪 桑田 青三
憎しみと春の雪のつながりは何だろうと思ったとき三島由紀夫の最後の小説といわれる、豊穣の海四部作の「春の雪」を思い出しました。男爵の御曹司18歳の美青年清顕と年上の聡子の物語。童貞を苦しめ怒らせる聡子、「私がもし急にいなくなったら清様どうなさる」愛の苦しみが憎しみにもなります。結局悲恋に終わります。
立春が過ぎて都関東では時に雪が降ります。一夜明けたら一面の雪景色、心の漂白でしょうか。 (濱本 寛)
卵ふわふわ朝食に春を呼ぶ 上薗 優
レンギョウ、ミモザ、フリージア・・・・と『春は黄色から始まる』と聞きました。
焼きたてのふっくらとしたオムレツの黄色に春を感じました。
バターの香まで漂ってきました
美味しそう~❤ (原田えつ子)
昭和へと玉砂利踏みぬ建国記念の日 桑田 青三
世界中から軍靴の響き、他人事ではない。 (今野 龍二)
「お母さん」里子の呼ぶ声吹雪く夜に 田 友作
昔ならともかく、今の時代にも色々な理由で里子に出す人もいるという。
吹雪く夜は格別寂しい。里子に出された子供の悲しみがひしひしと伝わって来ます。
(福島 雪雫)
我先に青天を突く冬木の芽 小峰トミ子
春を待つのは、人間も植物も。
生あるもの皆同じ。
春よ来い早く来い、ですね。 (島田 啓子)
シャボン玉残る写真と首輪だけ 小坪亭ゑん
幼子の死を、はかない命のシャボン玉に喩えたと言われる野口雨情の「シャボン玉」を連想させる句ですが、この句は愛犬の死を悼んでの句ではないでしょうか。
直接「死」や「悲しみ」という言葉を用いず、そして亡くなった対象を詠みこまないことにより、それだけに一層より強く作者の悲しみを読者に伝えるのに成功した句だと感じました。 (田 友作)
公園に真白きマスクのホームレス 田 友作
一読なんの変哲もない風景の句と読み飛ばした後、「真白きマスク」の「ホームレス」に背中がゾクッと冷たくなるような、不気味さを感じました。社会からはじき飛ばされた男が汚れのない真っ白なマスクをしている。人間社会の不安感を見事に伝えてくれます。 (桑田 青三)
晩酌が生きがいの友酒断ちぬ 聖木 翔人
私も晩酌として、500の缶ビールと焼酎2杯。とても楽しみです。まあ、最近、車ででかける予定がないと、昼間から飲んでしまいます。それほど、好きなお酒をやめなくてはならないというのは、私には解りません。万葉集にも、詠われています。偉ぶって酒を飲まない人は、猿にかも似んと。 (長谷川 博)
モジリアニ首にふわりと春ショール 小峰トミ子
兼題の「首」にモジリアーニの登場とは~~。あの特徴的な首の長い虚ろな表情の女性が、春色のショールを掛けている姿を想像するだけで、可笑しいやら、楽しいやら~~。最高です。 (原田 洋子)
啓蟄だ出てこい不要不急たち 國分 三德
「春になったのだから閉じこもっていないで外に出ようよ、コロナだって春になったらどこかに行ってしまうよ」。難しい言葉も使わずにそのように訴えてくる気持ちがよく伝わる句だと思います。 (山下 宗翆)
豆まきやわたし鬼なのどっちなの 國分 三德
いきなりそう迫られたら思わず、手にした豆がこぼれ落ちそうに。まるで自分に問われたようです。鬼って何…ちょっと哲学的でもあり、つい立ちどまってしまった。どきどきする興味深い句です。 (島 さくら)
白鳥の密なる群れにある安堵 上薗 優
コロナ禍で人々は密を避け、不安があります。白鳥の群れが超過密でも生き生きとしている様に安堵を覚えたのです。 (國分 三德)
啓蟄だ出てこい不要不急たち 國分 三德
24と60は、ともに啓蟄とコロナを関連させています。どちらも好きですが、24のほうが、コロナに(或いは自粛を国民に唱えているだけのリーダー達に)攻撃的な感じがあり、今の私の気持ちに合致し、選ばせていただきました。 (佐藤 ポチ)
よろしければ二人でお茶を雪女郎 島 さくら
雪女郎は、いつもひとり酒。たまには、午後のティータイムを二人でどうぞ!
(小坪亭ゑん)
白鳥の思案の首の長さかな 岩城 順子
兼題の白鳥の句が散見される中、白鳥の思案の首とは正にそんな気のする言葉と思います。今後思案する場合には、この句を思い出すことでしょう。
(小峰トミ子)
昭和へと玉砂利踏みぬ建国記念の日 桑田 青三
建国記念日なのに世間は何事かも知らぬようにのんびりと。
国が独立したなんて、何時?どのように?
せめて政府が誘導して国民に浸透する努力すればいいのに。
玉砂利と皇居イコール敗戦。玉音放送は内容が意味不明。
国民の全てはこれで終戦、心底安堵。あとは明日からどう生きるか。
A級戦犯の遺族はいまだに戦犯の罪悪感の意識なし。
ロシアとウクライナが交戦したら人類滅亡の危機。
建国記念日とはこのような意味を含んだ重みのある日でもあるのです。
(U3)
白鳥の密なる群れにある安堵 上薗 優
「ある」安堵とは~と考えていると、群れにある安堵?…。有る安堵感の事?
啓蟄だ出てこい不要不急たち 國分 三德
同調圧力の中心に立ち言い放ちたい、これが私の不要不急たち。
心すっきりの表現に有難うを伝えたい。
(上薗 優)
抜け出たる嗣治の裸婦や小白鳥 桑田 青三
嗣治の乳白色の裸婦像はパリ画壇で注目を集めました。その裸婦が画布を抜け出しているとおっしゃるのです。下五に置かれた小白鳥との配合が難解でそれが魅力でもありましたが、戦後直ぐに上演されたバレー「白鳥の湖」の舞台設営に携わった嗣治の活動に思いを寄せられたのかもしれませんね。
(かわにし雄策)
阪神淡路震災忌ヤカンを火に掛ける 金子うさぎ
あの早朝の大地震と甚大な被害、亡くなった方への追悼、二度と起こってほしくないという気持ちを思いつつ、「今日はこうしてお湯を沸かすことができる」とヤカンを火に掛けているのです。
「阪神淡路震災忌」と「ヤカンを火に掛ける」だけで構成された句ですが、この二つ(非日常と日常)を結びつけたことが、とてもよかったと思います。
(大西 惠)