2022年浜風新年句会 選者特選句の感想
到着順 ( )内は選者
初日の出善人のみの路線バス 島田 啓子
新年になると人間、すべての物が正しく思え、すべてのことが善に見え、すべてのものが美しく感じる。初日の出が差し込むバスに乗り合わせ、乗客全員が光り輝く善人に思える。こんな世界に過ごしたいものだと。 (桑田 青三)
白髪葱水に放たれ遊びおり 原田 洋子
葱は青い部分と白い部分が際立ち美しい。泥の中に有った根が洗い出すと真っ白に水に揺れ、仙人の風格を持つ。遊びの達人かも。 (濱本 寛)
のっけからドスンと受け身初稽古 かわにし雄策
小生は60歳定年で仕事を辞めて、当時流行っていた「おやじ狩り」の餌食にならぬよう合気道を始めました。
厳しい稽古の内、寒稽古の辛さを思い出し、この句を特選としました。「理屈なしの稽古」が滲み出ていると感じました。 (福島 雪雫)
鍋の具の八方美人長葱や 山下 宗翆
この句に出てくる、八方美人という、4字熟語の意味は、辞書で調べると、主に2つの意味がある。
一つは、欠点のない美人。もう一つは、誰に対しても如才なく、それでいてなくてはならぬもの。この句では、後の方の葱には欠点もあるがなくてはならない、葱。そういう立場のものであろう。
そこのところを上手く擬人化していると思いました。 (長谷川 博)
いつの間に人生の午後石蕗の花 原田 洋子
人生の午後とは、暮れではなくて、まだまだです。
黄色の群生の花が励ましてくれています。 (島田 啓子)
炬燵だし久に睦ぶや古時計 濱本 寛
かつて藤田湘子が日経新聞だったと思うが、古時計の振り子の句を自分自身の動かなくなった股間の振り子に例えて絶妙の鑑賞をした。作者の振り子はまだ動きそうですね、お大事に。 (今野 龍二)
幾晩も空と語りし凍み豆腐 大西 惠
冬空にさらされて、身が引き締まっていく凍み豆腐が思い浮かびました。 (G)
初富士や中村哲のひげ笑う 島田 啓子
感想文がいらない位?…。 選句して直ぐに手が出ました。(^^)
哲さんの笑顔。と行動は言葉では言い表せないです。
*追記 哲さんのお陰で、マグサイサイ賞も知りました。 (金子うさぎ)
コロナ禍の証人となる寝正月 原田 洋子
コロナに罹り寝正月となってしまった作者は、コロナの証人であろう。しかし単なる寝正月なのかどうかは微妙?です。時流に乗った句ですね。 (小峰トミ子)
身の黒きつゆほど知らぬ猫に雪 聖木 翔人
新鮮な驚きです。猫は己が真っ黒とは一生知る由もなく、況してや、それ故にしばしば嫌われる事も。情に流されず、見事にモノクロームの世界に昇華されたと思います。 (原田 洋子)
初雀チュンチュンあたたかい憲法 かわにし雄策
「憲法9条をノーベル平和賞に」の取り組み、活動を想起します。近年あまり見かけなくなった雀たちだけれど、初雀の澄んだ鳴き声に託した作者の平和への希求。その象徴のような風景がまた、あたたかい。 (島 さくら)
葱雑炊吹いて話の腰を折る 岩城 順子
あえて話の腰を折ったのは、同席者の気まずい思いを察した思いやりなのかも。
葱雑炊のほっとする素朴さでそんな連想をしました。 (山戸 則江)
金箔へふっと息かけ女正月 島 さくら
女たちに振る舞われた善哉の蓋を開けたら、金箔が……。そんな雅やかさに引かれました。 (原田えつ子)
寒月光ソーラー時計の胸騒ぎ 島 さくら
何度か見えたソーラーは、現実的な時計とは別世界。寒月も全く違って、胸がドキドキするような夜があるかもしれません。 (小坪亭ゑん)
つゝましや論語唱えて深谷葱 金子うさぎ
ネギイコール渋沢栄一。
これがイコール全ての句の感想内容です。 (U3)
平和な光景です。小さくてか弱い雀たちが楽しそうにおしゃべりしています。それも、「憲法」に守られているからこそ(「雀」は国民のことでもありますね)。「あたたかい憲法」という表現は、憲法の本質を言いえて妙。「初雀」としたことで、新しい一年の始まりにふさわしい、希望のある一句となっています。 (大西 惠)
触れたいと想ふ人あり葱洗ふ 濱本 寛
句中の主人公が男性なのか女性なのかずっと考えています。愛する異性に触れたいと願うのは自然の情理だし、それから更に愛も深まっていきます。冷たい水で葱を洗っている姿からは秘めやかな情念を纏った女性像が浮かんできます。
しかしとても潔い情念だと思いました。 (かわにし雄策)
触れたいと想ふ人あり葱洗ふ 濱本 寛
農家育ちの私は、収穫した葱を川で洗うのを手伝わされたことが良くあった。
収穫したばかりの葱は、土にまみれて黒いのだが、あらうと真っ白になるが、それは大根と違って艶のある白だ。
それが、幼児の頃の私を背負って育ててくれた姉や(当時18歳くらいかな)の白い手やうなじを思い出させ、葱を洗いながら、もう一度その姉やの肌に触れたいと思わずにはいられない・・・そんなことを思い出させてくれる句だ。 (田 友作)