秋きぬと目にはさやかに見えねども 風のおとにぞおどろかれぬる(169・藤原敏行)
秋が来た、とは言うが目にははっきりそれと見えない。けれども、風の音はたしかに昨日とは違って、ああ、やはり秋が来たのだ、とふと気付いた。
こんばんは、さやかです。
今日はちょっとだけ、恋歌から離れて季節の歌を。
先日、8月7日は二十四節気の立秋でした。
秋が立つのことば通り、暦の上では今はもう秋。
今週の8月23日には処暑となって、暑さがやわらぐ頃と言われています。
日本はとっても繊細に季節を感じるのですね。
なんとか、この歌は立秋の時期が終わるその前に!
と、やっと書くことができました。(笑)
この歌、実はとても思い入れがあるのです。
というのも、私の名前の「さやか」が、この歌に入っているから。
実は、この歌から私の名前って付けられたのです。
小学校の時に名前の由来を聞く、という授業があって、その時に祖父からこの歌をきき、それ以来大好きな歌の一つです。
それが成人してこうして歌を研究して、こんな文章を書くようになるのですから、人生っていうのは不思議なものですね。
何とも手前味噌な今日の歌ですが、ちょこっとお付き合い下さい。(笑)
さて、解釈です。
この歌は巻四「秋上」の巻頭歌、つまり一番最初に載っている歌です。
詞書きも「秋立つ日、よめる」と書かれていて、まさに秋の初めの日である立秋に詠んだ歌となっています。
よく、この歌が高校のテストに出されて「来ぬ」の読み方を聞かれたりします。
「ぬ」の意味が打ち消しだと「こぬ」と読めるせいなのですが、この歌はもう秋が来ていますから、「きぬ」と読んで、「来た」という意味で訳します。
あ、もしや中高生の方がいらっしゃるかも・・・なのでちょこっと文法的にお話ししますね。
必要ない方は次の★印までとばしてください。
「ぬ」は「~した」という意味の「完了」をあらわす助動詞です。
助動詞は前につく言葉の活用形が決められていることが殆どなのですが、
この完了の「ぬ」は動詞・形容詞・形容動詞の連用形にくっつくと決まっています。
「来る」を意味する動詞の「く」はカ行変格活用なので、連用形は「き」。
なので、「きぬ」と読みます。
以上、中高生向け文法説明終わり!★
さやかはあざやかに、とかはっきりと、という意味。
たとえば周りの人が長袖の服やジャケットを羽織ったりして、いかにも秋!という風に目に映るならば、「さやかに見え」ているんですが、そういう秋っぽいところはどこにもなくて、昨日までの夏と変わらない。
今の季節、まさにそうですよね。
みんな夏服を着て、昼間は暑くてクーラーが欠かせない。
・・・残念ながら残暑の厳しい奈良の我が家では夜もクーラーをかけざるを得ないのですが。(苦笑)
でも、よくよく考えて見ると、朝晩の風の涼しさは、今までとは随分違っているのではないでしょうか。
なんとなく、風が乾いてきて、そういえば涼しくなったような、なんて思い当たる節があると思います。
それが、まさに下の句です。
おどろく、はびっくりするという意味ではなくて、はっと気付くことです。
目を覚ますなんて意味もありますが、それもふとした刺激にはっと気付いて目が覚めるのでそういう意味になるわけです。
風が物にあたるふとした音や、肌に当たる感じ、それがやはり夏の風とはちがう。
その変化に気付いた時に、はっと、ああ、もう秋なのだ!と季節の到来を感じて、わけもなくちょっと感動しちゃったりするかもしれない。
それが「おどろかれぬる」の一言なのですね。
最近は見た目にも、雷がたくさん鳴ったり、見上げた空がちょっと澄んで青みを増していたりして、ああ、秋の空だなあなんて、思います。
そろそろ秋がさやかに見えはじめる頃なのかも知れません。