二つ目なりたての頃に志ん橋師匠に教えて頂きました。

 

元々はあまり興味のあるネタではなかったのですが、志ん橋師匠が落語研究会で掛けていらした古い映像を見て感激し、お稽古をお願いしました。

 

落語的な、マヌケな若い衆をいきいきと描写されていて、とても面白かったんです。

 

 

志ん橋師匠の教えはとても丁寧。10時か11時だったかに始まるお稽古は、いつも15時くらいまで掛かるのです。

人によっては、夕方まで終わらないこともあるそうで、その丁寧さに頭が下がります。

 

 

いま、『看板のピン』は一朝師匠に習う人が多い様ですが、一朝師匠も志ん橋師匠から。

 

 

その志ん橋師匠は、初めは小三治師匠にお願いしたそうですが、
「俺のは短いからまずは生之助にきちんと習って来い」と言われ、
圓生師匠の芸を忠実に受け継いでいらした生之助師匠に習い、
改めて小三治師匠から教わったのだそうです。

 

「圓生師匠と小三治師匠のドッキングだよ」と仰っていました。

 

他には「覚えたてはどんどんやって。ただ体に入ったら、あとは年を取ってから、たまにしかやっちゃダメだからね」とも教わりました。

 

年を取ってから、というのは、隠居の親分の描写があるからです。

 

これが若い者にはまずできません。

 

 

そんな訳で、若手が演じると前半の仕込みで失敗することが多いのですが、年配の師匠が力を抜いて演じると、その方の持つ芸人としての色気がこの親分に漂って味わい深くなります。

 

笑える、とは違う面白さが豊潤にあって、やはりベテランの師匠方には敵わないなぁ、と思います。

 

そして、「たまにしかやっちゃダメ」というのは、せっかくの気の利いた下げが、のべつに掛けていると意外性がなくなるから。

 

 

また、『看板のピン』は「逃げ噺」と言われています。


短い時間でサッと出来て確実にウケるネタ。


ベテランの方が、持ち時間がないときなどにやる噺、とされています。

 

 

アタシの師匠も「下げでウケるからやりたいんだろうけど、若い者がやるのはちょっとな…。辛抱が足りない」と・・・。

 

 

辛抱して力をつけるのは大変ですが、結局はそれが一番です。

 

(2022.11.28 19:50HPに投稿)

 

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<玉屋柳勢(たまやりゅうせい)とは>
落語協会の噺家。2020年真打に昇進。六代目 玉屋柳勢を襲名いたしました。
これまで師匠方から「直に」受け継いだ落語。それはアタシの財産です。
その楽しさと良き伝統をお伝えできたら嬉しいです。
落語会「噺の種」「玉屋噺の会」「ここだけの話」「ヒルラクゴ」「101らくご」を自主開催。

 

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