蛙と聞いて、こんな話を思い出しました。
ある町で、お釈迦様が人々に教えを説いておられました。
話を終えた後、みな散り散りに帰っていきましたが
一人残った男がお釈迦さまに言いました。
「わたしは愚かで先ほどのお話がわかりませんでした。
どうぞもう一度、教えていただけませんか」
お釈迦様は容易いことと、街を離れ広い草原であらためて
易しい言葉で丁寧に語りかけられました。
その涼やかな声は草原を渡り、そこで働く牛飼いの耳にも届きました。
牛飼いは怒りっぽくて、牛たちをむやみに棒で叩く乱暴者でした。
この牛飼いがお釈迦様のお話に耳を傾けるなど考えられないことでありました。
しかしこの日は、穏やかなお釈迦様のいつにもまして優しい声が
牛飼いの心の耳に届いたのでした。
牛飼いはいつもは牛たちを叩く頑丈な棒を地面に立ててその上に両手を重ね
顎をのせてお釈迦さまの話に聞き入りました。
初めて聞くその話のすべてに深く心打たれしっかりと頷いていました。
いっぽう、牛飼いを支えていた棒と地面の間に大きなガマガエルがいたのです。
背中に棒がのったとき、首をねじって振り仰ぎぎょろりと目をむきました。
この草原に住むガマガエルは牛飼いをよく見知っていました。
荒くれものの牛飼いが別人のようにお釈迦様のお話を聞いているのです。
牛飼いが話に頷くたびに棒に力が入ります。
ガマガエルの背中に痛みが走り思わず動いてしまいそうになります。
ガマガエルは思いました。今自分が動いてしまったら牛飼いは気を散らせ
せっかくの機会を逃してしまうだろう。よし!僕はこの痛みに耐え抜こう、と。
熱心に聞く牛飼いの棒に、どんどん力が加わり
ついには、ガマガエルの背中を突き破り棒は身体を貫きました。
「お釈迦さま、わたしをお弟子にしてください」
という牛飼いの声を遠くに、しかし確かに聴きながらガマガエルは命を終えました。
我が家のお隣はお寺さんで、うちもそちらの檀家です。
年に何回か仏教新聞を頂くのですが、そこに物語が時々掲載されていて
この話もそのひとつだったと思います。
紙面がもう手もとにないので正確ではないと思いますが、
やさしくて立派な蛙さんのおはなしでした。
月の兎もそうでしたが、人ではない生き物のけなげさ、純粋さに胸打たれます。
そういえば先日の雨蛙さん、元気ですごしているかしら・・
おやすみなさい、みなさま楽しい週末をお過ごしくださいね。
