その品の良い老婦人は突然俺にこう聞いた。
「あなた、お酒は飲まれるの?」
俺は「まぁ何でも…」と訝しがって答えた。
「じゃあ…」と言って老婦人は奥から古臭い瓶を持ってきた。
見ると20年位前のウィスキーのボトルだった。
「何ですかねこれ?」と聞くと、老婦人は笑いながら「梅酒よ」と答えた。
続けて「良かったら飲んでみて」などと言う。
俺は遠慮して「呑まれる方が居るから作ったのでしょ?その方が…」と言ったら、「もう亡くなりました」と返された。
俺が言葉を失っていると、老婦人は続けて「主人の為に造りましたが、もう居ませんし、家では誰もお酒は呑まないんです」と。
さらに「主人の好みに合わせて甘さは控えて作りました、お口合うかどうか解りませんが、もし飲んでいただけるなら、助かります」とも。
仕方が無く、俺は「じゃあ頂きます、ありがとうございます」と言った。
そんなわけで我が家にその古臭いウィスキーの瓶に入った梅酒が来た。
開けてみると、悪くは成って無い様子だったので、呑んでみる事にした。
グラスに注ぐと、通常の梅酒よりかなり色が濃い、呑んでみると確かにあまり甘くは無く、それこそウィスキーのような濃厚さがあった。
良く見ると瓶のラベルの横に「6年」と書いてある。
平成ならば19年、西暦なら7年経っている事になる。
ボトルには製造年月日1989年とある、つまり24年前だ。
そこから考えると、19年ものか。
その間、このボトルを見て旦那さんを思い出していたのかも知れない。
何だか複雑な気分になって、グラスを呷る。
「アンタの分も飲んでやるよ…」