クラシックに於ける欧州録音の米盤(※)と、ジャズに於いての米国録音の欧州盤は、それぞれのマニアから猫跨ぎにされる(傾向が多い)点で共通するものがある。
そこで、クラシックからフィリップス録音の米エピック初版盤、ジャズから米デッカ録音の独ブランズウィック初版盤を取り上げてこの事について少し書く。いずれの盤も、僕の聴く限りではオリジナルのフィリップス盤、デッカ盤に遜色の無い「情動」を惹き起こしてくれる逸品だと思う。

イメージ 1◎聴いたレコード◎
《 ドビュッシー & ルクー : 『ヴァイオリン・ソナタ』 》(米エピック)
アルテュール・グリュミオー(vn)、リカルド・カスタニョーネ(p)
 
グリュミオーも米盤は猫跨ぎ。このエピック盤は最初期スタンパーで盤質も良いものがフィリップス盤の10分の1くらいの安値で売られている。フィリップス録音の場合は英仏独蘭盤での価格差が然程なく、フラットかグルーヴガードか、初期マトリックスか否か等で価格差が生じる傾向にあり、コレクター氏によっては、オリジナルのオランダ盤よりもジャケットや装丁がお洒落なものが多いフランス盤を好む向きもある。

そもそもマニアにとってはグリュミオー盤そのものが猫またというか、ドビュッシーのソナタとくれば音盤狂特有のレアもの高額ものへの偏愛ゆえLP初期のロスタル&ホースレイ盤やオークレール&ルフェビュール盤、あるいはSPのジネット・ヌヴー&ジャン・ヌヴー盤やティボー&コルトー盤あたりの稀覯品がより珍重される傾向にあるんじゃないかと思われる。

実はこのレコード、ドビュッシー以上にルクーのソナタの演奏が素晴らしいのだけれども、それはまた別の機会に熱く語りたい。

イメージ 2《 サム・コスロウ : 『Mr.パガニーニ(ユール・ハヴ・トゥ・スウィング・イット)』、
ほか 》(独ブランズウィック)
エラ・フィッツジェラルド(vo)、SYオリバー&ヒズ・オーケストラ
 
この難曲にして大曲はエラの十八番(オハコ)で、変幻自在のファース、呼吸の深いバラード、練達のスキャットなどジャズヴォーカルのαからΩに至る全てが詰まっている。エラはのちにヴァーヴ盤でも名唱を遺しているが、この1950年代初期の録音は忘れ難い。

米オリジナル盤のヴィヴィッドな感じを残しつつ、シックなヨーロッパの肌触りが心地よい按配のブランズウィック盤は、クラシックファンならむしろこちらを好む人が多いだろうと思わせる佇まい。一方ジャズファンは何といっても米盤の溝から迸る「臭気」を求めてやまぬはず。


補足(※)クラシックに於ける欧州録音の米盤
クラシックの場合、米国レーベルによる米国録音であっても欧州盤が偏愛される傾向にある。シゲティの米コロムビア録音は米盤がオリジナルなのにフィリップス盤のほうが高価だったり、米エピックのセル&クリーヴランド管もオリジナル米盤より英コロムビアSAX盤が、米キャピトルのミルシュタインもオリジナル米盤より英仏キャピトル、英仏コロムビア盤の方が珍重されるのは、御承知のとおり。

米デッカ録音と英ブランズウィックのケースでもクラシックの場合、たとえばトゥーレックの平均律やゴールドベルクのブラームスヴァイオリンソナタ集などは英盤が圧倒的に高価で人気があるよね。