イメージ 1ハンナ・バーベラやウォルト・ディズニーが魅せてくれた「音楽と動画の融合する桃源郷の世界」とまではいかなくとも、アニメでクラシック音楽が単なるBGMをこえて使われることは少なくない。この夏終了したアニメにも、クラシック音楽が印象的に使われたものが幾つかあった。ひと頃ほどではないのだろうが、相変わらず夥しい本数のアニメが深夜帯を中心に流されているので、僕がみたのはほんの一握りでしかないけれども二作品に触れておく。いずれも1クールもの全盛の深夜アニメ群にあって、じっくりと腰を据えて作られた2クールものであり見応えがあった。

ひとつは、京都アニメーション制作の『氷菓』で、これは春先の番宣をボケっとみていたらフォーレの『シシリエンヌ』やバッハの『無伴奏チェロ組曲』『G線上のアリア』がきこえてきて、ドキッとしたものである。『氷菓』の音楽を担当した東京藝大出身の作曲家、田中公平氏が原作者の意を受けて作品のイメージを表現したのだそうである。もっとも作品中にはこれらの楽曲は然程使われていないのだけれど、どことなく共鳴するような曲調のものが使われていて印象が深かった。
例によって京アニ作品らしく、よく動く絵面が面白かったものの「アニメでなければ出来ないこと」ではなくて「アニメなら、こんなことも出来る」といった印象を僕は受けた。

もうひとつは、後藤圭二監督作品の『戦国コレクション』で、こちらは「アニメでなければ出来ないこと」をどこまでも突き詰めた、大変な意欲作。戦国武将が女体となって現代(らしき)世界に降臨し騒動を引き起こすというブッ飛んだ設定で、気がつけば劉備やベートーヴェンもやって来るのだが「それ戦国ちゃうやんけ」などと突っ込みを入れてはいけない。涙なしにはみることの出来ない十八話の大谷吉継の回でのフランス近代絵画を思わせる背景美術には度肝を抜かれたけれど、クラヲタ的には何といてっも二十話の明智光秀の回が印象的だ。映画『アマデウス』をベースにしたらしく、いきなりモーツァルトのト短調シンフォニー(交響曲二十五番)が長々と流されて快い衝撃。続けて四十番のシンフォニーやレクイエムなども効果的に使われており、存分に楽しめた。この作品では毎回ポップ調だったりジャズ風だったりと、お話ごとにさまざまなスタイルの音楽が意識して使われていて、本当に楽しかった。

◎聴いたレコード◎
《 J.S.バッハ : 『G線上のアリア』、ほか 》(英デッカ)
サー・エイドリアン・ボールト指揮コヴェントガーデン王立歌劇場管弦楽団

氷菓の番宣で使われた楽曲から『G線上のアリア』単体のレコードを一枚。ボールト卿のバッハは、しっとりとして、とても良い。組曲三番のレコードから選ぶのならば、シューリヒト盤でのアリアが絶品なので、別の機会に取り挙げたい。