イメージ 1先だって、半年ぶりくらいに中古レコード店へ足を運んだところ、モーツァルトの特設コーナーが作られていて、数百枚を遥かに超える夥しい数のLPがギッシリ並べられていた。もちろんモーツァルトのLPは新入荷や常設のコーナーにもたっぷりとあるから、特設コーナーのLPはどこぞのコレクターかその家族が纏めて処分したものなのだろう。店の人に経緯を尋ねようかと一瞬思ったけれど、概ね想像がつくから止めにした。大半が輸入盤で国内盤は少々、高価な初期盤やオリジナル盤もちらほら混じっている。骨董的レア盤やマイナー盤の類はほとんど見当たらないので、既に売れてしまったのかも知れない。
それにしても衝撃だったのは、その夥しい数量が並ぶモーツァルトのLPの大半を僕も所蔵していたり聴いたりしていることだ。とても他人事には思えない。いろいろ考えさせられる。本だのLPだの、やたらと持ち物が多くある。これからどんどん年をとってゆくのだから、少しづつでも身軽にならなくちゃな、と己の欲望の残滓と向き合うたび意を新たにしてみるものの、収蔵物のエントロピーは一向に改善してはくれない。俗に「女は灰になるまで」と言うけれど、僕としては「女とコレクターは灰になるまで」を痛感したレコード店探訪であった。
 
◎聴いたレコード◎
《 モーツァルト : コンサート・アリア『どうしてあなたを忘れられよう』K505、他 》(墺アマデオ)
エリカ・シュミット(s)、アウグスト・レオポルダー(p)、ゲルト・ハイデガー指揮ヘッセン放送交響楽団
 
あなたのことが忘れられない。
これは恋人に愛する気持ちを伝えるアリアだけれども、いざコレクションを手放さんとするコレクターの心根の呟きにもとれる。などと酷いこじつけをしながら、エリカ・シュミットのやや大人びた歌いぶりに耳を傾ける。この曲は若草の瑞々しさを湛えたベルガンサのデッカ盤での歌唱が絶品とされていて、古楽のカークビー盤ともども清新なものが好まれている。ここに聴くシュミットとフランクフルトの音楽家たちによるしっとりとした風情もなかなか好ましい。