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《 ガーシュウィン : 『HOW LONG HAS THIS BEEN GOING ON(いつの頃から)』、他 》(米キャピトル)
ジューン・クリスティ(vo)、スタン・ケントン(p)

先週末、カナダ大使館そばに在る東京ドイツ文化センターで行われた《オリジナル盤をハイブリッド・オーディオで聴く会》に参加したので、簡単に感想をまとてめてみる。

早い話が、新型スピーカーシステム(スピーカー、専用アンプ、専用イコライザー)セットのお披露目会であって、当日の主役は新機軸の「ヴァイオリン型スピーカー」なるもの。これは掻い摘んで言うと

「オーディオって高域再生に無理があるよね」

「そういや、ヴァイオリンって、あんなに小さなボディなのにマイクなしでも大ホールの隅々まで生音でちゃんと響くじゃん、しかも無伴奏でさ」

「そうだ閃いた! スピーカーのユニットにヴァイオリンを使ってみたら、物凄い特性の究極的スピーカーができるんジャネ? 俺って天才かも」

とまぁ、こんな経緯で(多分)開発が進められたらしい。ステージ上には小さなスピーカーを組み込まれたヴァイオリン、ヴィオラ、チェロのカルテットとコントラバス計5挺の弦楽器が並んでおり、なかなかに壮観。カルテットを揃えるとコストが嵩むし場所もとるので、家庭用にはとりあえずヴァイオリン1挺あれば楽しめますとのこと。

「イコライザーカーヴをキチンと合わせて、高域分離の良いシステムでLPを再生すれば再プレスの国内盤であっても初期盤、オリジナル盤に遜色のない生々しい音を引き出して楽しめますよ」というのが主催者側の趣旨であったらしく、オリジナルのSP、LPに始まり再発盤や国内盤などいろいろ、ジャンルもクラシックからジャズ、ビートルズ、越路吹雪など様々取り混ぜて聞かせてもらったのだが、僕の耳が捉えた限りでは

オリジナルのSP盤≧モノラルLPのオリジナル盤>ステレオLPのオリジナル盤>LP再発盤>LP国内盤

の順番で明らかに音の優劣が感じられた。当日の演目で言うと

1.フルトヴェングラー指揮ウィーンフィル『オベロン序曲』のSP盤(蘭HMV)
2.エディット・ピアフ『愛の賛歌』のSP盤(仏COLUMBIA)
3.ルー・ドナルドソン『ザ・タイム・イズ・ライト』のLPモノラル盤(米ブルーノート)

という順番になる。より厳密に順位付けをすると、3番目にはヒッシュのシューベルト、コルトーのショパン、ベームのブルックナー、カラヤンの魔笛等々いずれもSP盤がやはりランクインしてしまうので、LPから1枚選んだけれどもこうなった。僕の耳が劣化しているのでなければ主催者側の意図とは正反対の結果ということになる。技術の進歩とは一体何なのだろうか。あらためて考えてしまった。

当日の主催者側のトークで面白かったことを2つほど。今回開発したシステムも本来は真空管を使って作りたかったそうなのだが、そうするとイコライザーだけでも軽く畳2帖ぶんくらいのスペースを占める巨大装置が必要となってしまい、家庭用はおろか業務用としても現実的ではないため断念したとのこと。確かにそんな大掛かりな装置は軍用以外には実現不可能だろう。それはともかく、音の良さを追求するなら真空管は欠かせない、ということが基本認識としてあるようだ。

もうひとつは、SP、EP、LPをとっかえひっかえするなかで主催者が「回転数は速ければ速いほど音が良い」と漏らしていたことで、最近聴きなれたアルバムのEP盤を聴き、その音の凄まじさにビックリするという経験をしたばかりだったので妙に納得してしまった。

そのEP盤というのがコレ。いまさら僕が言うべきことなど何にもないクリスティーとケントンの大名盤『デュエット』だけれども、これまでは専ら12吋のオリジナル盤を聴いていて、それも素晴らしく良い音で鳴っていたから特に思うところもなくEP盤を聴いてみたのだが、あまりに凄まじい音がしたので思わずグッと息を呑みこみ全身が固まってしまったくらい(一瞬だけどね)衝撃的なピアノの唸りとヴォーカルの肌触りに対して「いくらなんでもこりゃ、やりすぎだろ」と思わずツッコミをいれてみたものだ。

それにしても、当日数百人近く集まった参加者の9割がたは(僕も含めて)中高年のオッサン、オバハンばかり。ステージを写さずに会場だけを写真に撮れば、どこぞの敬老会の集まりとしか見えなかったのではないだろうか。あらためてLPというものが「昭和な」道楽なんだと思わされて感慨しきりであった。