夢の話 その2 煙をあげ足元に転がり来るオニギリ 



 歳を重ね眠りが浅くなったせいか良く夢をみます。 

 普段は目覚めると夢の詳細は忘れてしまい、何となく覚えている事柄も時間の経過とともに記憶の彼方に消え去ってしまう様です。 

 しかしながら時には夢の世界から記憶を持ち帰ってしまう事がある様です。 

 楽しい夢、哀しい夢、苦しい夢、喜怒哀楽融通効かず荒唐無稽で常識では説明できず、思い通りにならないのが夢のようです。




 昨日の夢もその様な夢でした。 

どこかに仕事に行っているのでしょう。 

高いビルの長い階段を降り駅に向いました。 

売店でオニギリとお茶を買い、キップを買って時刻通りの電車に乗り込んだ様です。 

電車内は何故か人がいなく窓辺の席に座りました。 

窓枠に頬杖をつき車窓の景色を眺めていました。 

電車は何処の都市でしょうか、流れる雲を突き抜ける超高層ビル群の間を進みます。 

真っ青な空に雲を映すガラス窓がキラキラと輝いていました。 

やがて電車は都市を抜け海沿いを進んで行きます。 

遠くにビル群がまぼろしの様に揺らいで見えました。
反対側の窓からはアルプスの様な雪を頂いた高い山が見えています。 

美しい絶景に写真を撮ろうとしましたが、持っているはずのカメラがどこにも有りません。 

とても残念な気持ちになりました。 

電車は山地方向にドンドン進み、いつしか窓辺の景色は古い民家が建ち並ぶ田舎の景色になりました。 

電車はやがて長いトンネルに入って行きました。

長い長いトンネルでした。 

どれくらい進んで行ったのでしょうか。 

真っ黒な窓辺は少しずつ明るくなりトンネルを抜けると古い商店や住宅が立ち並ぶ街に出ました。 

真っ青な気持ちの良い空が広がっていました。

雲一つ無い青い青い空です。 

車窓を流れる景色を見てもうそろそろ目的地に着くらしく、荷物を持って乗降口に立ち、やがて電車は小さな駅に止まり私は電車を降りました。 

電車を降りて振り返ると、乗っていた電車はいつの間にか路面電車となっていました。

1両編成の屋根に丸いヘッドライトの有る小さな茶色い路面電車でした。 

私は特に不思議に思わず、道路に敷かれた線路沿いを荷物をもってトボトボと目的の場所に向け歩いて行きました。 

暫く歩き続け立派な石の塀が有る目的の場所に到着した様です。 

門を入りロビーに行くと誰だか知っている人がいた様です。  

どうやら何かの会議に出席する為の出張だった様です。 

会議場所は3階と聞き勝手知っているのか荷物を持ち木の階段をギシギシ鳴らしながら上がって行きました。 

 会議室に入ると荷物を置き窓からの景色を眺めました。 

ゆっくり流れる大きな川が見え行き交う小舟が見えました。 

風情有る景色に写真を撮影しようとし、カメラを捜しましたが、やはり持って来た筈なのに見つかりませんでした。 

とても残念に思いました。 

会議まではまだ時間がある様でした。 

持って来たお茶とオニギリでも食べようかと思い荷物の中を捜している時に誰か人が入って来た様です。 

白いセーラー服を来た女学生の様でした。 

バケツと雑巾を持ち会議机や黒板を拭いてくれている様です。 

なぜ学生がいるのか何も疑問を持たず、私は声をかけ雑談をし始めました。 

夏休み?アルバイト?と聞くと奉仕活動と明るく答えてきました。 

家は近所?と聞くと窓辺から外を指差し川の向こうと答えました。 

川の向こうには平屋の家が立ち並び、行き交う人々や大八車などが見えました。 

他にも色々聞き、話していた様ですが今は思い出せません。 楽しく話した様です。

私は朝食を食べようとした事を思い出し、窓から見える涼しげな河岸で食べたくなり、話しの続きをしたく女学生をさそいました。 

女学生も朝食は食べていない様でした。 

会議室を出て木の階段を降り、石の門を出て川面に続く石段に腰をかけました。
他にも腰掛けている人がいた様です。 

川に吹く風は涼しく水は緩やかに流れている様でした。 

河岸でも女学生と色々話しをしたようですがあまり覚えていません。 

断片的には学校では音楽の授業が好きな事、その音楽の授業が最近行われない事、男の先生がいて大声を出し怖い事、家にヒマワリを育てていて今日1輪咲いていた事、これから次々に咲く事が楽しみで仕方が無い事。後々種を集める事等、楽しそうに話してくれた様に思います。 

 私は袋の中からオニギリとお茶を取り出し、梅と鮭どちらが好きかと尋ねると、鮭のオニギリをじっと見て食べた事が無く食べてみたいと言いました。 

鮭のオニギリを手渡し受け取ると不思議そうにビニールの包を見ていました。 

開け方が判らない様なので、先ず真ん中のフィルムを引っ張り破いて、左右に包みを引っ張り海苔を出し、オニギリを包む様にする事を教えてあげました。 

無事にオニギリを取り出す事ができ手に取り眺めていました。 

食べてごらんと言うと、海苔のパリッという音をたてて一口食べた様です。 

あぁ美味しい、美味しいと言ってニッコリと微笑み空を見上げました。 

真っ青な空が広がり対岸の家並みの上に柔らかそうな雲が一つ流れていました。 

ブォーーーンとのどかに飛行機が飛ぶ音が聞こえました。
美味しいか?まだあるよ。
と声をかけました。 

ブォーーーンと遥か高く飛行機の音が聞こえ飛行機好きの私は飛行機の音を追いかけ背後を振り返り、私達が出て来た建物を見て思わずウヮ〜〜と大声を上げました。 

私達が会議室から出て来た建物は、なんと産業奨励館ではないですか。後に原爆ドームと呼ばれる建物です。 




鮭のオニギリを大事そうに食べていたいた女学生や周りの人々に向け私は、逃げ〜逃げろ〜と大声を出した様です。 

彼女が不思議そうにこちらを見た瞬間、激しくパシッと音がしたと同時に真っ白になり眩しく見えなくなりました。 

ほんの瞬間でしたがやがて明るさが少しずつ収まり周りが見えて来た様です。 

私の足元には半分食べかけの鮭のオニギリが転がり、飛び出した鮭の具と共にオニギリは灰色のモウモウとした煙を上げていました。 

彼女がいた側を見ると激しくジュ〜と鳴る音と共にまっ黒い煙と白い煙が激しく渦巻く様に立ち昇っていきました。 

間髪入れず頭を叩かれる様な衝撃とパーーンと響き渡る音と共に目が覚めました。 


悪夢でしょう。

目が覚めても暫く動悸がしていました。 

ウォーという地の底からのザワメキがまだ聞こえて来る様です。 

それにしてもはっきりとした夢を見たものです。 

私が経験した事柄を見た夢と異なり、まるで何処かに存在する場所に迷い込んだ様です。 

対岸の家並み、行き交う人々とざわめき。 

緩やかに流れる川面と揺れる水草。 

座った石段の継ぎ目に映える草と石段を這う蟻の様な虫。 

洗いざらし、少しよれたセーラー服の縫い取りと長ズボンのシワと少し汚れたズック。 

風に揺れる髪と穏やかに微笑み青空を見つめる澄んだ黒い瞳。 

大好きなヒマワリの話し。 

お腹をすかしていたのでしょう。
海苔をパリパリ小さく鳴らしオニギリを美味しそうに食べる姿。 

少ししか食べれなかったな。
そんな夢を見てごめんな。
可哀想で仕方が有りません。 


 ただの幻でしょう。
時間を飛び越えた荒唐無稽な夢。
もう一度見返せるならば、穏やかに苦しみなく幸せに暮らしている様に夢見てあげよう。 

沢山の大輪のヒマワリも咲かせましょう。 




現実世界で再びドームに行く事が有れば 腰掛けていた石段が夢の通りか見てみたい。

ヒマワリの花と鮭のオニギリを河岸に供え流しましょう。何時の日か。 


 カーテンを開けると眩しく真っ青な夏空が広がり、柔らかい雲が風にのって流れていました。  

 時刻は8時前でしょうか。 

蝉が賑やかに鳴き今日も猛暑となりそうです。 





 以上、昨日の夢の話しでした。