僕は開業以来2年半ちょっとで約30件の眼内レンズ交換を行っています。

 

眼内レンズ交換の手術件数はあまり出ないことが多いので、詳細は分かりませんが、多分、かなり多い方だと思います。

 

今のところ、全例でレンズを取り出し、目的の新たなレンズを入れることができています。

 

ほとんどの例では経過良好で目的は達成できていると思っています。

でも、全ての症例でよい経過ではありません。

他の病院(大学病院)ではレンズ交換をしようとして水晶体嚢の支えがちぎれ、その後、レンズを眼の壁に縫つける手術に移行したら、今度は網膜剥離を起こしてしまい、視力も下がってしまったというような話を最近、聞きましたが、そこまではいかなくとも、僕も元のレンズを取り出し、目的のレンズを入れたまではよかったものの経過がよくないケースが1例だけあります。

 

その患者さんは元々、白内障手術で3焦点レンズを入れましたが、ハローグレアが強く出てしまったのと、若干乱視が残り(トーリックレンズでしたが)裸眼視力が少し出にくく、その改善目的で他の多焦点レンズ(トーリックタイプ)への入れ換えを行いました。

 

手術では、レンズと水晶体嚢の癒着が強く、片方のハプティクス(レンズの支えの部分)が外れず、ハプティクスを光学部(光が通るレンズの部分)の付け根で切断し、レンズを取り出しました。

そして、新しいレンズを入れ、トーリックなので、乱視の軸を合わせましたが、ハプティクスが残っているせいか、若干、中心固定が悪く、不安定な印象でした。それでも、その時点で十分問題ないと思われる位置にレンズが固定でき、手術を終えました。

 

手術直後は眼への侵襲で視力が出にくいことはあるのですが、炎症が落ち着いても見え方がなかなか改善せず、少しずつ、レンズの位置がずれが見られるようになってしまいました。

おそらく、レンズ交換後に水晶体嚢の再癒着が進み、新たに入れたレンズのハプティクスの働きがアンバランスになってしまい、ズレが生じてしまったのだと思います。

そうすると、乱視も増えますし、多焦点レンズの効力もなかなか発揮できなくなってしまいます。

単焦点レンズはズレにはある程度強いというか、許容性があると思いますが、多焦点レンズはその許容範囲が狭く、それを越えると逆に見えにくさが強くなってしまう繊細なレンズというか、諸刃の剣的な要素があるレンズだと思います。

 

結果的にはハプティクスが外れない時点で無理にレンズを取り出さない方がよかったと思います。それは僕の判断がよくなかったと思っています。

 

ただ、取り出して、新しいレンズを入れて、このような状況になってしまった場合、見えにくさがあるのであれば、このレンズを取り出して、単焦点レンズにする方が見え方としてはずっとクリアになったと思います。

 

このことは患者さんには提案しましたが、もちろん、手術ですので、合併症の可能性もゼロではないですし、よくなることを期待しての手術でも、今回のように結果的にはうまくいかない可能性もあるということは伝えなければなりません。その結果、だったら今のままでいいということになりました。

 

この患者さんの期待、信頼に応える結果が出せなかったのがいけなかった自分の力不足ですが、このような結果は申し訳ない気持ちとともに残念な気持ちでした。

 

今、このブログを読んでくださっている方の中にはレンズ交換や他の眼の治療を考えている方もいらっしゃるのではと思います。

 

僕らはなるべく一度で、よい結果を出そうと頑張って、一生懸命やっているつもりですが、それでもどうしてもうまくいかないケースは存在します。病気や眼の状態が複雑だったり、手術が難しいと当然その確率はより上がります。2度目の手術が必要となると、それは当然、受けるべきかどうか悩むと思いますが、手術を受けるリスクとともに受けないリスクも考えていただきたいです。再手術を受けないことでもマイナスの部分が大きい場合もあります。担当の先生とよく話をして、どうするのが自分にとって一番よいのか、よく考えて悔いのない選択をしていただきたいと思います。

 

眼内レンズ交換は一度で思った通りにならないことはどうしてもある手術だと思います。それは、通常の白内障手術同様、レンズ度数の計算もズレる可能性はありますし、新たに入れたレンズの見え方も予想と違ったということもなくはないかと思います。

 

僕がレンズ交換の手術をした患者さんでは、右2回、左1回の両眼計3回入れ換えした人や他院で1度入れ換えをした後、僕のところで2回の計3回入れ換えをした患者さんもいます。

複数回の手術は負担になる部分もありますが、再手術のデメリットより再手術のメリットが大きいと感じられれば、よく考えた上で、再度の手術を受ける意味、恩恵は十分あると思いますし、そう感じてもらえるように手術しています。

 

↑レンズの癒着が強い場合は支え部分を切断して取り出します。