執筆年月】2011年1月

2003年2月の出来事


話は前回より飛んで、東京生活後(帰阪後)のある旅エピソードを。


東京時代に「追突事故」で買い取る羽目になった車(勝手にタマノローレルと名付けていた)も、「モンキーターン事件」等無茶な運転が響き、損傷が激しかった。
あちこちにガムテ補強が施され、見栄えも悪かった。

大阪帰還後、金回りも落ち着いた所で、車を買い換えたのだ。


中古で買ったのは、スズキのカプチーノ赤。
一時期軽自動車メーカーが競って造ったスポーツタイプのAZ-1(マツダ)、ビート(ホンダ)、カプチーノ、所謂ABCのCである。
ツーシーターでマニュアルシフト。おまけに前オーナーがあれこれチューンナップ済みで、サスペンションも固く、前に「スカート」、後ろには「翼」も付いた代物だ。
「車検用に」と、外された消音器もオプションでくれた。

新しい相棒はすこぶる快調で、爆音を奏でて大阪の街を滑走するのであった。

職場では同僚に「ちょっと乗らせてくれ」と、勤務先の周りを何周も「試乗」されたり、上司からは「チョロQ」という愛称をつけられたりしたが、初めて欲しい車に乗れた喜びは、車体の小ささに反してデカかった。


2月のある日。
初めて相棒と長旅に出た。
向かった先は四国。
贔屓のプロ野球チームがキャンプを張る高知県安芸市である。
当時夜勤をしていたので、仕事明けのそのままの姿で、勤務先のある堺市から、阪神高速を乗り継ぎ、明石海峡大橋に向かった。
夜更けの明石海峡は、周りに何も見えなかったが、真っ直ぐに延びた誰もいないハイウェイは気持ちよい。


徳島県に入った。
ここからは四国の東の「縁」を走る。
安芸に行く前に、二軍キャンプのある室戸に向かう為だ。
少し空が藍に染まり始める徳島の市街地は、物流のトラックが慌ただしく動く。
小さな赤い車はそんな中を縫って走る。

夜明けの海岸沿いを風を切って走った。
やがて室戸に着いた。午前8時。
キャンプの開始を待ち、暫し見物。
「ケンタロー!しっかり取れ!」などの掛け声が飛び交う。因みにケンタローとは、今(2011年当時)やバイプレイヤーとして欠かせない存在の関本だ。
当時はまだ駆け出しの頃だった。


室戸を後にして、四国の南の縁を安芸に向かって飛ばした。
南国の眩しい光が太平洋に映える。
安芸では打撃や守備練習の最中だった。練習の合間を縫って、球場の周りを走る姿も見た。主力選手が目の前を通り過ぎた。

この日は高知市内のホテルに泊まる事にした。



あとがき(2024年5月のコメント)


大学卒業後の駆け出し社会人生活に触れる前に、地獄の東京時代を抜け出した後の旅の思い出を記す。

モンキーターン事件についても追々語ることにしましょう。


赤いカプチーノ(red-cappuccino)は筆者通算3台目のマイカーである。本文にもある通り、初めて理想のクルマを手に入れたのだ。

120度ぐらいほぼ寝そべり状態のコクピット、視点は低く軽箱すら大きく見えてしまう。隣にトレーラーなんか来た日にゃ踏み潰されちまうんじゃねーかってくらいの赤い小悪魔(リトルデーモン)。

前車タマノローレル(Tamano-Laurel)からカーナビとCDチェンジャーを載せ替え、せせこましくなってしまったが完璧な我が城。

ターボ車の独特な低音とブローオフバルブから発するバカでかい溜め息がエグいほど琴線に触れてくる。

MT教習以来のマニュアルシフトもまた男心をくすぐってくる。教習所時代はあんなに苦心していたミッション操作も、この時は楽しくて仕方がなかった。

ただ「ロングスカート」を履いていたせいで、段差は大敵。車止めに前から突っ込むときは異様に気を遣う。

ガスッとかメリメリって音を立てることしばしば。生傷は絶えない。

公休日前の夜勤明けなんかは家に帰らず、プチドライブなんかよくやっていた。和歌山方面にはよく行ってたな……


残念な事に、本文中に写真を一枚挿入したがこの写真しか現存していない。

当時世に出たばかりのデジカメで何枚か写真を残していたはずなのだが、バックアップを取ってなかったためにデータが全部闇の炎に抱かれて消えてしまったのだ。

残っていたのはパカパカのガラケーで撮った低画素の写真一枚のみ。


そんなある日、阪神の春季キャンプを見に行こうと思い立ったのだ。当時は宜野座ではなく、まだ安芸でやっていたのでクルマで行ける。

2003年は星野監督2年目のシーズンで、この年に18年ぶりのリーグ優勝を果たしている。

野村監督時代まで続いた長い暗黒時代から、ようやく明るい兆しが見えてきた2002年から明けた新しいシーズンだ。

室戸の二軍キャンプにも活気を感じた。

観客席に落書きされた ""ごみを捨てないで、にはクスッときたが。


安芸市営球場では紅白戦や練習試合ではなく、普通のフリー打撃や守備練が行われていた。

平日だったからかもしれない。

本文中の「主力選手が目の前を」というくだりは、球場周りのランニングで確か赤星選手などが目の前を駆け抜けていったように記憶している。

ナマで見るプロ野球選手はオーラがあるというか、一回りデカく見える。赤星選手と身長はさほど変わりない筈なんだが……


一通りキャンプ風景を見学したあとは、太平洋岸を西進し高知市内に向かった。

宿は市内の観光案内所に「飛び込み」で、空き部屋を探してもらい予約するという手段。

昔、筆者の父親が同じく「行き当たりばったり紀行」の際によくやっていた。

平日なので比較的リーズナブルな部屋が取れたと思う。

これも今ならスマホでサクッとなんだろうね。


ところでこの日何食べたんだっけな…

記憶にないということは、コンビニ弁当を持ち込んだか何かか?

染み付いた東京での貧乏生活をまだ引きずっていたのだろうか。何かご当地のうまいもんでも食べときゃよかった……