【執筆年月】2011年1月
1998年3月の出来事

東へ北へひたすら進んだ旅も4日目の朝を迎えた。
この日は小雨模様だった。

ここからの旅は今までとは一味違っていた。
まず、列車の本数が格段に違う。
一時間に一、二本とかザラなのだ。
大阪から仙台までは割とスムーズに行けたが、ここからが勝負所だ。
今から乗る列車は一関行きだが、一関で30分強の待ちを食らう。
しかも二両編成のワンマンカーと来た。
この運行形態、当時(平成10年)は今(平成23年)ほど普及していなかったように記憶している。
ましてや東北本線(当時)という幹線で。
車内放送もテープでまるで路線バスだ。
遠くに来てしまった事を否応なしに実感するのである。
仙台駅を出発し、都会の風景が徐々に田園風景にクロスフェードする。
もうこんな都市風景にお目にかかることはない…そんな気さえしてきて、一抹の寂しさを覚えた。
時折、頭の上を東北新幹線が猛スピードで追い抜く。
あれに乗れば盛岡まで一瞬なのに…と何度思ったか。
列車はゆったりと一関駅ホームに到着。次の盛岡行きを待つ。

同じような列車がやってくる。そしてまたゆっくりと盛岡へ向かう。
岩手県も半ばを過ぎると、まだ雪が残っている。
寂しさをオールドで紛らわせる。
盛岡駅は少し離れた新幹線ホームが慌ただしい。このギャップがたまらない…


暫く待った後、次の八戸行きが出発する。
まだ隣りの岩手県に移動しただけだが、朝仙台を出て、もうお昼も過ぎている。八戸に着いた頃はもう陽が傾き始めていた。
青森までは同じ事の繰り返しだった…

青森では違う列車が待っていた。快速「海峡」号。青函トンネルをくぐり、函館に向かう列車だ。
遂に来た。いよいよ北海道上陸だ。

ドラえもんのラッピングが施された50系客車に乗った。
トンネル開業10周年で、期間限定のイベントをしているらしい。
正直これは知らなかったので、驚いたと同時に得をした気分だった。

ドラえもん達によるトンネルの説明が車内に響いていた。
列車はトンネルに向かって走っている。トンネルはまだか…
用意していたラジオから聞こえる、カラベリグランドオーケストラのムード音楽と夕焼けが最高の旅を演出している。

トンネルに入った。
海鳴りだけを聞く事も、凍えそうな鴎見つめ泣く事もないが、確実に津軽海峡を越えている。

函館着はすっかり夜だった…
オールドですっかり出来上がった口元からは「函館の女」のフレーズが自然に出ていた…
意気揚々と海鮮丼のある居酒屋に向かっていた。



あとがき(2024年3月のコメント)

仙台から函館まで距離にして約500km。
だから初日の大阪・御殿場間より長く移動しているはず。
それなのにあまり進んだ気がしなかったのは、待ち時間が長過ぎたせいなのか、途中に観光を挟まなかったせいなのか。
ローカル列車ののんびり旅が繰り返し続いた。

本文ではまったく触れていないが、前日の晩に閉店ギリギリの売店で買った「こばやしの網焼き牛たん弁当
列車の乗り継ぎ待ち時間にホームで食べたけど、めちゃめちゃおいしかったコトだけはハッキリ憶えている。
牛タンだけじゃなくてごはん(麦めし)もおいしかった記憶があって、旅先で食べた想い出の食事ベスト3の一つに、今もランクイン継続中である。

当時鉄道旅でワンマンカーというのが初体験で(路面電車を除く)、今でこそ関西本線加茂・亀山間や和歌山線など「2両目のドアは開きません。一番前のドアから……」もお馴染みの光景になりましたが、その新鮮さを初めは感じ、だんだん飽きてきて「2両目のドアは…」しつこいねんとか思っていたことを思い出しました。

そして完全にオールドウイスキー依存症……

青函トンネル開業10周年はドラえもんとのコラボ企画で、定期運用の快速海峡号がドラえもんのイベント列車になっていました。
この時はまだ大山のぶ代さんの声だったんじゃなかったかな……

この旅の道中、Day1でも少し触れたが地方ローカルCMの蒐集も兼ねており、ラジオを聴きながら鉄音も楽しむという贅沢をしておりました。
ちょうど夕焼けの綺麗な黄昏時、聞こえてくるのはRAB青森放送ラジオ「青森スバル・ミュージックアゲイン」というミニ番組。
この日はイージーリスニング特集ということで一曲目に流れてきたのが、カラベリ・グランドオーケストラ演奏による「Love's Theme
紀行モノなんかのBGMでよく使われるやつ、ご年配の方なら「キャセイパシフィック航空」のやつと言った方がピンとくるでしょうか。 

これがタイミング良くインサートされて来たんです!
ニクい演出にもう感動、感激しました。

ドラえもんとRABラジオさんからの素敵なサプライズプレゼントのように思えて、それまでの長旅の疲れもどっか行っちゃって、ハッピーな津軽海峡越えになりました。
(冬景色と天城は?)

北海道に上陸し、石川さゆりモードから北島三郎モードに切り替わりました。
夜も更け人もまばらな函館駅前を人目気にせず、やや大きめに「はーァ…るばる来たぜはーこだってぇ~♪ ◎☆$※#▽@◆!?」と酒の勢いに任せて歌ってた、と記憶しています(筆者、酔った時の行動は素面になっても割と覚えてるほう)

で、割とすんなりと海鮮居酒屋的なお店を見つけるのでありました。
しかしこちらはお一人様。
手酌酒で吉幾三モード突入です。
妄想で当時のバイト先の先輩社員と一献交えるというシミュレーションしながら、丼てんこ盛りの海鮮丼を堪能したのでした。


いよいよこの東日本縦断旅も翌日最終日を迎えます。果たして無事に大阪へ帰れるのでしょうか………
そろそろ故郷へ振り向こうぜ。