長く生きていると不思議な話を聞くこともある。私自身は超常現象は全く信じないのでこの話も半信半疑なのだが・・・。 それは以前勤めていた会社で同僚と車で外出したときにそのYから聞いた話。彼の実家は峠道の入口にあったそうです。昔はそれなりに車の行き来があったのですが彼が小学校4年生のときに迂回路とトンネルが出来、峠道を通る車はほとんどなりました。たまに峠道を走ってみようというバイクが上って行ったり下りてきたりする程度で車も人もほぼ通らなくなりました。彼があることに気が付いたのは小学校6年生の12月頃だったそうです。前述のように車の通りはほぼなくなった峠へ続く道ですが毎晩のように下りて来る車があったそうです。毎晩8時20分頃に峠の方から来てYの家の前を通ってバイパスの方へ行く車があるのです。それに気付いたときは仕事帰りの人が毎晩峠を通って帰るのだろうという程度に思っていましたがよく考えてみれば峠の方には何の施設もありませんし山の向こうから帰ってくるならトンネルを通って来れば良いわけでわざわざ真っ暗な峠道を通って来る理由はなさそうです。彼はどんな車なのか見てみたい好奇心にかられました。しかし夜8時過ぎにそんな理由で家を出るなど親に叱られるに決まっているので彼は二階へ上がる階段の上にある小さな窓から道路を見張ることにしました。自宅と道路の間には家一軒分くらいの敷地があって農機具小屋があり横にトラクターと自家用車と軽トラが置いてありました。階段上の窓からは農機具小屋の屋根越しに道路が見えるのです。彼は8時20分頃になると耳をそばだてて車の音がすると階段を駆け上がりそっと窓を開けました。そんなことを数日繰り返しましたがタイミング的には走り去る車のテールランプがチラッと見えるだけでした。時期は12月の半ば過ぎとあって階段の上にじっとしているのはかなり寒かったのですがある日8時15分くらいから窓を開けて道路を見張ることにしました。これで以前からの疑問がすっきりすると思っていました。しかし結果は意外なものでした。峠の方から車の走行音らしきザーという音がしたので暗い道路を見ていたところ目前の道路を通過する車は見えずいきなり遠ざかるテールランプらしき赤い二つの灯が見えたのだそうです。農機具小屋の屋根越しに見える道路は街灯もなく家の灯も届かないため闇の中ではあるが車が通過するのが見えないことはあり得ない。子供ながら何か異常なものを見ていると感じたのですがそれ以上どうして良いか分かりませんでした。数日後、流星を見るという理由で母親に8時過ぎに外へ出る許しをもらって外へ出ました。家の横には用水路があり以前父親が夜にそこへ落ちたことがあってうるさく注意されたがとにかく農機具小屋の陰で8時20分を待ちました。今日こそその正体を見てやろう、そう意気込んでいました。しかし、8時20分を過ぎてもその日は何も起こらなかったのです。峠から車は下りて来ないしもちろん走り去るテールランプも出現しない。12月の夜はとても寒く30分とじっとしていられずに家の中に入りました。翌日の夜はまた二階の窓でその車を待ったが8時20分を過ぎても何も起こりませんでした。その翌日もさらにその翌日も何も起こらなかった。結局その日以来8時20分に車がやって来ることはなかった。このことについて彼は大人になるまでずっと考え続けたそうです。そしてひとつの説明に辿り着いたそうです。あのテールランプのような光が峠から下りてきて走り去るのは何か自然の仕組みのひとつだったのではないかと。誰もそれに気付かない世界の中で雷やオーロラが発生するように、あるいは放射性物質がベータ崩壊を起こすように、自然の仕組みのひとつだったのではないか。それを彼が観察したことでひっそりと進行していた自然の仕組みのバランスが崩れそれが起きなくなったのではないか。まるで二重スリット実験で人間が観察するかしないかで結果が変わるように。心霊現象のような話をするのではないかと思って聞いていたのでその解釈に私はかなり興味を惹かれてこの話をよく覚えていた。世の中には人間が知らないところで起きている現象や変化がたくさんあるのかもしれない。私たちがときどきそれを垣間見ると異常な現象だと考えたり不思議だと感じたりするのかもしれませんね。