国旗損壊罪 | 狂直の日記

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多摩武蔵守のブログです。
こちらのブログは政治話中心で行こうと思います。ブログタイトルは『三国志』虞翻伝の評より拝借しました。
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 自民党の高市早苗議員らが、今次国会に日本国旗損壊罪等の罪(以下「国旗損壊罪」)を新設する刑法改正案を再提出すべく自民党や公明党に働きかけています(注1)。量刑は2年以下の懲役または20万円以下の罰金とすることを検討しています(注2)。このことが、最近ツイッターで話題になりました。 

 

 私は国旗損壊罪の創設に賛成です。積極的に賛成する理由がありますし、反対する理由もないからです。

 

1.賛成する理由

 

(1) 外国の国旗を損壊するのが犯罪なのに(外国国章損壊罪。刑法第92条)、自分の国の国旗を損壊するのを犯罪に してはならない理由はありません。

(2)国旗に敬意を払うことは万国共通のマナー(注3)。禁止したところでほとんどの国民は困らないでしょう(注4)。

(3) 国旗は国のシンボルですが、日本の中には私や読者の皆さんも入ります。日の丸を焼いたり破ったりするのは私や読者が焼かれたり破られたりしているのと同じなのです。無論法律的にはそこまでストレートに言えませんが、国旗を焼くことを表現の自由だの権利だの声高に言い募るなと言いたい。

 

2.反対する理由がない理由

2-1.国旗損壊罪は表現の自由を過度に制約しない

 

(1) 表現の自由が国章や国家の権威を象徴する物件を尊重する義務より優先すると絶対的・断定的に認める国は存在しません(注5)。民主国家においては、表現や政治的主張は定められたルールの範囲内で工夫すべきであるという社会的合意が形成されています。国旗を焼きたいという向きがそのことを勝手に判断する権限はありません。どうしても国旗焼きたければ捕まる覚悟でやるべきです。

(2)内心に踏み込む思想統制か。これは立法論(法律かくあるべし)ならありうるが、解釈論(法律かくあり)としては成り立たないと考えます。罪としているのは「国旗を侮辱する目的で損壊」という行為の外形で、「日の丸反対」「日の丸嫌い」という意見や感情、異議申し立てを罪としているわけではないからです。 ある一定の目的を犯罪の要件にすることも、思想統制とはされていません。我が国においてそういう司法判断が下ったこともありません。

(3) 国旗を焼くことも含め、反社会的表現に対し国家権力の庇護を求めるとは、どれだけ人に甘えれば気がすむのかと思います。国旗焼いて捕まるのは勲章だ、くらいに胸を張るべきです。

 

2-2.反対論に説得力がない

 

(1)「日本国に対して侮辱を加える目的」で損壊することを罪とするのだから、それ以外で汚損・毀損したときは該当しません。お子様ランチの日の丸を捨てたら逮捕、は脅迫的言辞。サッカー日本代表の応援メッセージとして日の丸に寄せ書きするのも合法。さらに、もし反対派の意見が正しければスポーツのナショナルチームは大方捕まってしまいます(国旗をつけたユニフォームが汗まみれ、泥まみれになるので)が、実際には国旗損壊罪を設けている諸外国でもそのような事態になっていません。

(2)日の丸以外の国章が焼かれることを防げないならやるだけ無駄という議論がありますが、不備があってもある程度機能するならそれでよいでしょう。完全な規制ができないならやめてしまえ、というなら、私達は犯罪の取り締まりも諦めねばならなくなります。現在検討中の法案では国旗のみを対象とし、 軍旗・元首旗・大使館徽章などのその国家の権威を象徴する物件は対象とされていませんが、対象にしたら賛成するのでしょうか。 しないならそれは単なる揚げ足取りです。

(3)器物損壊罪で対応可能なので不要という議論がありますが、器物損壊罪は国旗損壊罪や外国国章毀損罪の代わりになりません。器物損壊罪は「他人の物を損壊」することを罪としているので、自分で購入した国旗を毀損することに対しては適用できないからです。

 

4.注

(注1)

 

 

 

 

(注2)外国国章毀損罪の量刑と同じ。これに対してあまり罰を重くすると、裁判所が「立法趣旨はわかるが、刑が重すぎる」と違憲判決を出すかもしれない(尊属殺重罰規定違憲判決と同じ理屈)から、その辺のバランスが難しいでしょうね。

(注3) 「法は最低限の道徳で倫理とは別」「法律で禁止されているからやってはいけない」といいますが、「やってはいけないから法律で禁止されている」こともあるのではないでしょうか。国旗に敬意を払うことは万国共通のマナーですから、国旗損壊罪や外国国章毀損罪は後者ではないでしょうか。お墓や宗教施設絡みの刑罰も。

(注4)むしろ私は国民がそこまで野放図な自由を求めているのか、と問いたいです。

(注5) 表現の自由はこれだけで本一冊書けるくらい難しい話がいろいろあるし、裁判所も苦心して判決文を書いていて、それさえ言っていれば議論に勝てるわけではないのです。それどころか、下手な主張は表現の自由の価値を貶めるリスクもあると思います。

 

※2021/1/31 誤字を修正、また一部追記しました。