高市総務大臣の「電波停止」答弁 | 狂直の日記

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多摩武蔵守のブログです。
こちらのブログは政治話中心で行こうと思います。ブログタイトルは『三国志』虞翻伝の評より拝借しました。
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 8日の衆議院予算委員会で、高市総務大臣が、放送局が「政治的に公平であること」と定めた放送法の違反を繰り返した場合、電波法に基づき電波停止を命じる可能性に言及したというニュースが流れました。


http://this.kiji.is/69349696002752514?s=t


 この件についてツイッターでは「気に入らない放送をしたら電波を止めると言うのか」「情報統制だ」「安倍政権の独裁政治だ」など、非難の声が巻き起こっています。しかし私は、その非難は正しくないと考えています。以下、素人なりに説明します。


1.高市総務大臣発言の法的根拠


 高市総務大臣の発言の根拠は放送法第4条第1項と考えられます。


「(国内放送等の放送番組の編集等)
第四条  放送事業者は、国内放送及び内外放送(以下「国内放送等」という。)の放送番組の編集に当たつては、次の各号の定めるところによらなければならない。
一  公安及び善良な風俗を害しないこと。
二  政治的に公平であること。
三  報道は事実をまげないですること。
四  意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。」


 放送法は、行政庁が国民の権利義務を形作る法律の一つですから、行政法と考えられます。行政法では、国民の権利を制限しまたは義務を課す行為は、法律の定めなしにしてはならないという原則があります(法律の留保)。では放送法が、権利を制限し義務を課す行為の根拠となる定めを置いているのかというと、第174条がそれに当たるのではないかと考えられます。


「(業務の停止)
第百七十四条  総務大臣は、放送事業者(特定地上基幹放送事業者を除く。)がこの法律又はこの法律に基づく命令若しくは処分に違反したときは、三月以内の期間を定めて、放送の業務の停止を命ずることができる。 」


2.実際に処分をしようとしたらどうなるか


 処分をすると言っても、はいそうですかで終わるわけではありません。実際にはいくつかの手続きを踏む必要があります。


 放送法はそれだけで完結しているわけではなく、行政法の中の一つです。したがって、ここに書いていないことは行政法の一般原則(たとえば上記の法律の留保)や、行政法の一般法に従うことになります。
 行政法の一般法とは、行政手続法と行政不服審査法です。
 放送の業務の停止は行政手続法上の不利益処分に当たると考えられますが、このような不利益処分をするときは、事前に名宛人に対する「弁明の機会の付与」(書面)か「聴聞」(口頭)を行い、意見を聞かなければなりません。聴聞の方が手続が厳格です。業務の停止なら文言上は弁明の機会の付与で足りると考えられますが、「行政庁が相当と認め」れば聴聞もできます。


 放送法第4条の規定は処分基準としては曖昧なように感じられますが、行政手続法では、行政庁は不利益処分の基準を定めることと、その基準を公表することは努力義務とされていますので、現行法でも業務の停止を命じることはできると考えられます。
 ただし現行法のままで処分を下せば訴訟で負ける、逆に憲法違反とされるなどの逆ねじを食らう恐れもあると考えられます。ですので、放送法第181条に基づき、総務省の政令で具体的な基準を定めることになるのではないかと考えます。なお政令は内閣法制局の審査を経ないと閣議に出せないので、内閣提出法案と同じくらいの合憲性は保っているのではないかと考えます。


 また処分を下した後も、行政不服審査法と行政事件訴訟法で争う余地があります。いずれも行政処分の取り消しを求めて不服を申し立て、または争う手続きを定めた法律で、前者は行政庁に申し立てを、後者は裁判所に訴訟の提起をします。


 放送法には行政手続法・行政不服審査法・行政事件訴訟法の適用を除外する規定はありません。

 上記のとおりコントロールは行き届いており、したがって、「気に入らない放送をしたら電波を止めると言うのか」「情報統制だ」「安倍政権の独裁政治だ」という非難は失当であると考えます。


3.高市総務大臣が今回の答弁をした理由


 私は、自民党がかねてより一部メディアの偏向報道を問題視してきて、それがついに公に噴出したのではないかと考えています。そのきっかけになったのが椿事件です。椿事件とは当時のテレビ朝日報道局長が「なんでもいいから反自民の政権を誕生させる手助けになる報道をしよう」と会合の席で発言していたという事件です(ただし具体的な指示をだしたことについては否定されています)。

 ただしちょっとやそっとのことで処分を下したら訴訟で負けるなどの逆ねじを喰らう可能性もありますし、世論のバックアップも得られないと考えます。ですので、椿事件レベルの本当に悪質な事件だけを念頭に置いていると考えるのが妥当ではないかと考えます。


 テレビの報道番組に対しては、ネットや保守層を中心に偏向・捏造を問題視していました。それらの評判は差し引いて考えるべき部分もあると思います。


 しかしテレビは自民党を叩きまくったくせに民主党政権に対しては歓迎ムード一色、幹部の失言や汚職に対しては異常に甘かったし、失政に対してはほっかむりしていましたから、ネットや保守層の評価は「当たらずと言えども遠からず」といったところでしょう。


 そして明白に違法である椿事件レベルの事件を起こせばさすがに言い逃れはできないと思います。

 どこの業界でも業務に対する品質や社会的責任は厳しく問われます。会社が粉飾決算をすれば上場廃止の憂き目に遭いますし、福島第一原子力発電所の事故を起こした東京電力を、マスコミはこれでもかというくらい叩きました。マスコミは法令違反、事故や事件を起こしても埒外でいいとは、虫が良すぎるのではないでしょうか。


4.参考資料

 放送法(昭和二十五年五月二日法律第百三十二号)

 http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S25/S25HO132.html

 行政手続法(平成五年十一月十二日法律第八十八号)

 http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H05/H05HO088.html

 行政事件訴訟法(昭和三十七年五月十六日法律第百三十九号)

 http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S37/S37HO139.html

 行政不服審査法(平成二十六年六月十三日法律第六十八号)
 http://law.e-gov.go.jp/announce/H26HO068.html