追憶のタマ伸也
バンドヒストリー
本日なんと第十五弾!

主な登場人物。

1 タマ伸也
  9弦ギターを掴まされ
  ギターに対し内向的に。
  ミーハーな傾向と裏腹に
  音楽的マニア自負するも
  単に節操無いとの評判も。
2 ソーマ
  兄の影響でエルビスや
  ツェッペリンといった
  オールドロック好き。 
  流行の音楽に懐疑的。
  かなりの頑固者。
3 ススタ
  常に学年トップの秀才。 
  ただロックはあまり知らず
  そこをつけ込まれメンバーに。
  典型的眼鏡君なルックス。
4 オック 
  メンバー中、最も思想的に
  ロックを捉えていた早熟少年。
  よってパラノイアな奇行多し。
  ロッキンオン愛読者。
5 クリーニング渡辺
  メンバー中唯一の女子生徒。
  どうやらオックが好きらしい
  との情報の元に勧誘する。
  実家クリーニングママ号。
6 原坊
  新任美人体育教師。
  普段着ている体育着は
  超ボイン故に男子生徒に
  好奇の眼差しを浴びる。

中学校の文化祭
ってさ基本的に
地味じゃない?

放送部の研究発表会とか
美術の時間に書いた
絵を貼ってるだけとかさ
確か影絵とかもあったな…

うちらの時は
あと甘味処ね。

白玉ぜんざいか
なんかあって
あと何故か
豚汁もあって。

ま、高校の文化祭ほど
お楽しみポイント
ほとんどないのよ。

そんな文化祭の中
唯一パワー感なのが
うちらなのよ。

「セクシー4+マタ」
なんたって出番がさ
日曜日の夕方3時とかで
つまり大トリなのよ。

持ち曲1曲なのに
すごい扱いなの。

楽器はすでに
体育館に設置済み。

配置もよく分かってないから
ど真ん中にドラム置いちゃって
なんともアンバランスなの。

ドラムセンターだけど
ちなみにこれって
CCB以前の話しだからね。

んで普段は使わずに
ここ一番の時に使う
幕引いちゃったりして
やたら物々しい訳よ。

イヤが応にも
期待感がすごい訳。
「セクシー4+マタ」
全校生徒大注目なの。

文化祭初日の
本番前日から
オレらだけはさ
他の生徒とは別行動で
特別に例の音楽室を
楽屋代わりにしてね。

カワシマも差し入れ
してくれたりしてさ
って白玉ぜんざい
なんだけどさ。

んでオックがさ
その白玉ぜんざい
食べながら言う訳。

本番での演奏なんだけど
レコード通りやるよりも
オレとしては盛り上がった
ズズドドでやりたい、って。

オレとかソーマは
えぇ~!?って。

だってもう楽器も体育館にあるし
練習出来ないんだぜ…とか言って。

したら意外にママ号だけは
ひとりオックに賛成して
私もズズドドがいいって。

確かにレリビーをズズドドで
やるのは大幅に間違ってるけど
そのオックの意識は明らかに
ロックそのものであってさ。

ズズドドレリビーで
知らぬ内に体感した
興奮と高揚感は
まさにロックの持つ
それと一緒な訳で。

ロック早熟少年の
オックだけは
唯一それを自覚し
感じ取っていたの。

でもみんなで
どっちでやるか
すごい悩んでね。

ズズドドなのか
チチチチなのか…。

結局どっちにするかは
本番直前の幕の裏まで
持ち越されてしまうの。

そうして迎えた本番当日
甘味処ぐらいしか
行くとこのない文化祭で
パンパンに膨れ上がった
期待感とオレたちの緊張感の中
刻一刻と本番が迫って来た。

全校生徒が体育館に
どんどん集まってきて
絶え間ないざわめきの中

カワシマが
音楽室で待つ
オレらを
遂に呼びに来た。

好奇と期待の
入り交じった
全校生徒が集まる
体育館へオレらが
入ってくだけで
すごいどよめき。

ススタなんかは友達に
手振ったりしてんだけど…

オレはその時に
体育館の一番後ろ
学年主任の立つ隣に
原坊が居るのを
はっきりと見たんだ。

緊張と興奮の中で見た原坊は
もう体育着を着ていなくて
明らかにお腹が大きくなっていた。

オレは思い出していた。
相談しに行った日のことを。
二人で車に乗った日のことを。
電話をかけられなかった日のことを。
そして学校に来なくなった日のことを。

一度は居なくなった人が
何でここに居るのかなんて
知る由もなかった。

今日が終れば
また原坊は
居なくなるだろう。

そしてここに居る
みんなだって
いずれ居なくなる。

ソーマだって
ススタだって
オックだって
ママ号だって…

ベリベリギターと共に
やがては過ぎ去っていく。

オレは訳が分からなくなった。
何も考えられなくなっていた。

遠くでソーマの声がする。
ズズドドにするのか
チチチチにするのか…。

その言葉に意味もなく頷きながら
オレは何も考えられないでいた。

幕の裏に着き
ドラムに座り
スタンバイする。

向こうから
冷やかしの
声が上がる。

セッティングを
手伝ってた
カワシマも
袖にはけた。

ステージ上には
メンバー5人
しかいなくなった。

スタンバイOKだ。

それでもオレはまだ
訳が分からなかった。

夏みたいな秋の日に見た
グラウンドの白線のように
今日のレリビーだってやがては
ぼやけてしまうものなのだろうか…。

決めた通りに
合図を出すと
放送部による
アナウンスが
始まった。

さぁ本番だ。

本日はここまで。
次回はいよいよ
クライマックス!