必要以上にデカイ声で挨拶したあとそのまますぐに本番
ちょっとバラすとこの時、猪木さんは袖で大きな深呼吸を
一つしてからステージに向かった。

流れる猪木ボンバイエ、大歓声はさながらプロレス会場
開口一番『元気ですかー!』会場ドドドーッ!
(ちなみに本番前のマイクチェックも元気ですかー!だった)

進行は地元局のアナウンサーの子と賑やかし役の俺
一応の台本上は猪木さんの途中呼び込みで登場予定

舞台監督は袖で待機する俺らに言う
『猪木さんのトークはどう転ぶか分からないので
話しの途中でカットインして入ってって下さい!』

えぇーっ!それ絶対無理です!
猪木さんのトークにカットインだなんてっ!
(小声ながら完全に慌てふためくトーン)

袖のそんなやりとりを知ってか知らずかステージ上の猪木さん
『普通こういうのは司会ってのがいるんだけど
 今日は司会はいないので一人でやろうと思います』

ぬおーっ!いきなり出た!
ゴング直後のラフファイトッ!
ナックルアローの鉄拳制裁!

舞台監督『ここ、ここ、はい、カットイン!』
えぇーっ!これ全然無理ーーーーー!
でももーいくっきゃないっっっ!
ありったけの俺の中の元気ですか~!を振り絞る

『どーもー、猪木さんこんにちはーっ!
デビュー50周年おめでとうございますーっ!』

例えるなら登場から既に
鉄拳制裁で額から流血状態のまま
リングインする練習生の様相。

アハハ顔の猪木さん
目ざとく司会の女子アナの子が手に持つ台本を見て言う

『台本なんかつまんねぇ~っ!』
(元気ですかーっ!と同じトーン)

司会の子、ビクーンッ!
一瞬にして頸動脈が締まってる。
女子アナ相手にキラー猪木炸裂!

さらに攻撃の手は緩まない
『段取りなんかつまんねぇー!』
(元気ですかーっ!と同じトーン)

『ちょっとぉ猪木さ~ん、待ってくださいぃ~』
膝をついて懇願するポーズ
自然にリックフレアーになってる俺。

その横顔は猪木さんがよく見せる
例のウフフ顔になっている。

女子アナの子は台本と段取りを取り上げられ
リング下でもんどりうっている。
それもまたプロレスだ!ナイスファイト!

俺の中の憧れや思い入れといった
ファン気質を全て封じ込めて
あのアントニオ猪木に食い込むしかない。

猪木さんの話しはスケールがとにかくデカイ
プロレスはもちろんのことイラク人質解放から
北朝鮮拉致問題、中国での平和活動
パラオの珊瑚礁保護問題にアフリカ食料問題
キューバカストロ議長とのエピソード
ご自身の生い立ちであるブラジル移民の話し…
レスラーとして政治家として環境問題まで
もうめちゃくちゃ多岐に渡りまくる。

そしてなんとっても
フィニッシュホールドは下ネタだ!

例えば北朝鮮との外交の経緯を語るまじめな空気の中で
『…北朝鮮のミサイルはこちら側に向いているじゃないか
そこでその席で俺はこういったんです
俺のミサイルもそっちを向いているぞ!
(その時、ちらっと自分の股間を見る猪木さん)』

『闘魂注入を女性にしたことがあったんです
そしたらその女性にこう言われましてね
お腹に子供が出来ちゃいました、とね
私、闘魂注入ではなく闘魂挿入してしまいました』

言う度にウフフと一人笑う猪木さん
さながら伝家の宝刀卍固めの如し!

かくして戦いは終わった。
一時は無制限一本勝負『巌流島の戦い』を思わせるも
それでも対ドリーファンクjr戦フルタイムドローの倍
2時間10分のセメントマッチだった。

闘魂注入は全てお客さんとの為
なので俺はされることはなかったけれど
このセメントマッチはまさに闘魂注入
真のストロングスタイルの体験だった。

ちなみに猪木さんの中でいいレスラーは
全盛期のアンドレ・ザ・ジャイアントと
ドリーファンクjrだそうです。

35の抱っこも叶わなかったけれど
打ち上げの席でも猪木さんは猪木さんだった
その話しは俺だけのご褒美なので割愛だ。

ウフフ。