Kバレエ創立20周年を記念して

創られた、

バレエの『マダム・バタフライ』を

観てきました。




マダム・バタフライは、中村祥子。

ピンカートンは、宮尾俊太郎の

オーチャードホール3ステージ目。



まず幕開き。

重低音で音楽が始まり、

するすると緞帳が上がると、

紗幕が現れました。




あっ、そうきたか!




まだこれから東京文化会館でも

何公演もあるので、

あまり書いてしまうと

ネタばらしになりそうですが、

配慮するほどのアクセス数か、

というのもあるので、

書いちゃうことにしました(笑)。




それにしてもの幕開き。

前奏曲を聴きながら

しばらく紗幕を見つめる時間が

あるのですが、

まず曲がいい。




いきなり

よく知る『蝶々夫人』の名曲を

どかーんではなく、

なんと『君が代』をアレンジ。




そして

紗幕の中央に描かれていたのは、

顔は浮世絵風、

だけど洋装向きに髪型をこしらえた

蝶々夫人の顔。

その顔に隠れるように

江戸期の絵師達によく描かれた

日本髪の浮世絵女性も

重ねられている。




見つめれば見つめるほど

よく出来た紗幕の絵。




低く、静かに、厳かに

始まった音楽と相まって、

日本を舞台に、

アメリカ人との愛に生き、

そして迎える

蝶々夫人の不幸な結末を

暗示させられ、

紗幕が上がる前で私は既に

胸がいっぱいに。




この紗幕の出来を見て、

日本人が、熊川哲也が形作る

『マダム・バタフライ』のセンス、

50%は大丈夫と確信しました。




日本情緒とか言いながら、

昔のチンドン屋のような

白塗り一辺倒の化粧だったり、

中国趣味と混同されて

極彩色なだけの衣装だったり、

という

外国人の作る蝶々夫人の造形には、

何とかならないかと

思ってましたから。




浮世絵の活用を思いついたことは

大正解!




長崎の蝶々夫人の自宅から

港が眺められることになっていますが、

格子の先の背景、

つまり、

海でもあり空でもある背景色は、

北斎ブルーではないかな。




格子も、

そして

舞台下手に立つ一本の松の木も、

どこかで見た浮世絵…

たぶん北斎の絵の一角じゃないのかな、

と思いながら、

ブルーの美しさや

松のシルエットなど

舞台が日本であることを

示すに十分な、

独特の陰影に目を奪われました。

この感性は、

日本人のものだなあとも。





舞台装置は盤石です。

次は衣装。




これもきっと相当産みの苦しみを

経たに違いあるまい。

バレエダンサーに

着物を着せなきゃならないわけで。




でも

とてもよく出来ていました。

拍手ものです。




芸者達の襟の抜き具合、

赤い長襦袢の裾から見える分量など、

実際のところ(リアリティ)と、

客席からの見栄え、

ダンサーの動きやすさの3つを

うまく折り合いつけて秀逸。




何より一目見て、

美しい、と思いました。

造形も色も。

品がいい。




特に、

花魁の緋色の長襦袢と

黒の塗り下駄を象徴した

黒のトウシューズとの色の対比。




それと、

和服を実際着る時に

注意することも、

衣装の作りに忠実に反映されていて、

感心もさせられました。




というのも、

蝶々夫人が袖の大きい白い衣装を

まとって一人踊る2幕目。




バレエの動きでは

腕の上げ下げが当たり前にある。

だけど実際、着物を着ている時に

腕を上げて袖がまくれ、

二の腕はおろか、

肘までニョッキリ見えてしまうのは、

昔も今も下品な所作とみなされます。




蝶々夫人が踊るこの場では、

気がつくと、

腕を上げる動きをした時も

袖がまくれてこない。

そうなるような仕掛けが

仕込まれていたのです。




そうすることで、

人物の造形を上品なものに

作り出せ、

かつ、

袖が撚ってしまわず、

きちんち広がって見える方が

衣装としても舞台映えもする。




なかなか細かい配慮というか

こだわりで、

観ている方としても嬉しい。




肝心のバレエについて。




正直、

もっと踊ってくれる場面が

欲しかったな、

という気がしました。




作品的に、

白鳥や眠り、

あるいはクルミのように

祝祭的に踊りを見せるような

形式にするには、

この作品、

あらすじがシンプル過ぎるし、

そもそも

おとぎ話ではない。




また、

外向きに感情表現、肉体表現する

バレエという西洋の芸術と、

作品のテーマに含まれている

内向きな日本人の精神性という

相反するものの両立が、

踊りよりも芝居(マイム)寄りの

印象を強くした感があるかも。




ただ、

正味2時間の新作を振り付けた

熊川氏の手腕はさすが。




ダンサー達は、

トウシューズを履きながら、

内股で歩くなどの

バレエの普通と逆行するような

振付に相当苦戦したかもですが、

本番では克服してましたね。




総じて、

変な異国情緒を持ち込まれて

キワモノになるどころか、

バレエ作品らしく上品で、

日本文化や精神性のリアルを

細かなこだわりと技で追求した

巧みな舞台だったと思います。




拍手。