「なんかさぁ、おかしい思えへん?」

「え、何が?」

「あたし、ふつうに歩いててん。そこにな、前からスマホ見つめた集団が来たのよ。仕方ないから横に避けたんやけど、これって絶対おかしいやんなぁ」

「集団?」

「そうそう、なんかみんながみんな取り憑かれたように手元を見つめてんのよ。なんか異様な感じでさぁ、何人かは良からぬこと画策してる顔してたし、……知らんけど。って、そこちゃうやん! なんであたしが避けなあかんのか、ってとこ」

「ハハハ、判ってんがな。とりあえず言うとかなな。せやけど、キミも乗ってくるねぇ」

 さてさて、かなりの部分脚色してしまったが、要するに彼女たちの言い分はこうだ。こちらは、ちゃんと前を見て歩いてるのに、なぜ前を見ない奴らに道を空けないといけないのか、ということだ。これには隣の席で大いにうなずいてしまった。もちろん、心の中でだが……。さらに話は続く。

「けど、あれって、こっちが避けずにぶつかって行ったら、こっちが悪くなるらしいで」

「えぇ、なんでやの? 前見てへん方があかんやん!」

「そうなんよね、私もそう思うわ。けど、確かに何かで見たのよ。何でかは知らんけど……」

 なんや、知らんのかい! 今度こそ思わずツッコみそうになってしまった。あぶない、あぶない。

 それはともかく、これはちょっと気を付けないといけない。吠える彼女ではないが、やはり前を見ずに歩く輩と相対したなら、突っ込んで行きたくなるのが人情というものだ。できることなら、相手からのすいませんの一言でも欲しい、そう思って軽くぶつかりたくもなるものだ。「あぶないがな!、前向かな!」何か一言でも言ってやりたくなるものだ。さらに虫の居所でも悪ければ、その辺りにある、例えばビール瓶やカラオケのリモコンなどを使ってでも殴りたくなるかもしれないというものだ。

 ん? ちょっと最後の方はタイムリーさから勢い余ってしまったが、とにかくこちらから肩や手や足を当ててしまったら一気に形勢逆転となってしまうのか。確かによくよく考えてみたら、わざとぶつかって行って難癖をつける当たり屋とか、近ごろ脚光を浴びている身勝手極まりない煽り屋とかと大差ない訳で、そんな輩にはなりたくはない。

「ほな、どうしたらええの?」

 う~ん、できればみんなが前を向けるようにしたいところだ。駅のポスターの呼びかけや、小生も微力ながら当雑記では以前から事あるごとに警鐘を促しているが、実際にはなかなか啓蒙も進んでいない。結局今のところは君子危うきに近寄らずということか。まあ車と考えれば前を見ない奴など危険極まりないから極力巻き込まれないよう距離を取ればいいことだし、愚か者は人の欠点ばかりを見るという言葉もあることだ。心おおらかに平らかにして、少し気になることにも極力目くじらを立てないようにすることしかないのかもしれない。けど、そのうちには何とかしたいなぁ。