黒沢清監督の、Vシネ時代の作品です。
確かこれ、随分昔にレンタルビデオで観たはずです。
・・・何も記憶が無い。
哀川翔が娘の復讐をする話、だった気がします。
なんだか嫌な話だった様な。
続編の「蜘蛛の瞳」は、予告が面白そうだったのに実際はあんまりだった、という記憶もあります。
それだけ。
そんな「蛇の道」がなんと!
柴咲コウを主演に!
フランスを舞台にして!
黒沢清本人によるセルフリメイクを!
されるというから驚くじゃないですか。
本当に何が起こるか人生は分かりません。
しかも6月14日から公開です。
今週末からですよ。
ここはいっちょ、オリジナル版を観直して待ち構えてやろうじゃないの。
そんな軽い気持ちで、以前wowowで録画して放置してあったのを観てみたのでした。
・・・恐ろしい映画でした。
こんなに恐い話だっけ。
哀川翔の出るリベンジ映画なのは間違いないのですが、演出が完全にJホラーなのです。
嫌~なムードと、何が起こるか分からない緊張感で心臓がずっと圧迫されている感じです。
始まった瞬間から、もう絶対何も良くならない事だけはハッキリしているのです。
エンジンは故障し、燃料も尽きた飛行機が、延々と墜落していくのを眺めている様な絶望感。
なのに、何がどうなるのか、先がまったく読めないのです。
一体どこから暗黒が押し寄せてくるのか・・・。
勘違いしていたのですが、娘の復讐をするのは相棒の香川照之でした。
黒沢清監督で香川照之と言えば、「クリーピー」です!
「まだまだいくぞ!」のシーンには痺れました。
「クリーピー」では元気なキチガイ役でしたが、「蛇の道」でも復讐心でキチガイになってしまった役でしたので、黒沢監督にとっては「キチガイ枠の役者」なのでしょう。
よく分かっていらっしゃる。
本人も何より楽しそうです。
それを助ける不気味な男が相川翔です。
何を考えているのかまったく分からないのです。
とにかく頼もしい所はいつもの兄貴なのですが、この映画ではその頼もしさがどんどん恐くなる。
相手がヤクザでも全然恐れない。
メインの2人は「動」と「静」の対照的な演技なのですが、どちらも心が死んでしまっているのが共通しているのです。
とにかく強引で無茶な展開なのですが、相手側も明らかな反社組織なので、事態は悪化するばかり。
ずうっと大丈夫ではない感じが続くのです・・・。
爆発する!
この機体、もう爆発するぞ!
残酷シーンとかは無いのですが、精神的な圧迫感が凄く、ずっと怖い。
忌まわしい。
でも、終盤ではバイオレンスな展開にもなり、ちゃんとオチまであって、意外なほどエンタメ的でもあります。
これは・・・傑作じゃないか!
こんなに完成された話を、リメイクしたらどうなるのか・・・。
正直、不安になってきました。
どうせなら、大きく変わっていて欲しいですね。
ついでに、「蜘蛛の瞳」も観てみました。
続編とはいっても、話の設定から違うし、直接的なつながりは無いみたいです。
主役はもちろん、哀川翔。
娘の復讐を終えたところから始まります。
そう、クライマックスはもう終わっている。
この映画は、復讐の後の虚無を描いた作品なのです。
昔の友人(ダンカン)から、殺し屋の仕事に誘われる哀川翔。
やりたい事も無いので、淡々と人殺しをするのだが・・・というお話。
面白そうな設定だし、当時観た予告では殺しのシーンがバン!バン!と出るので「これは凄い」と思うのですが、実際はかなり・・・退屈です。
まあ、これは意図的な演出です。
「蛇の道」の緊張感は無く、弛緩した日常が続きます。
コメディ的なシーンも多く、他の人も指摘していましたが、北野武映画にかなり近い。
「ソナチネ」を思い出しました。
大杉漣に寺島進まで出ているのもありますが。
なんと阿部サダヲまで出てきます。
ハッとする様な素晴らしいシーンと、どうでもいいようなだらだらしたシーンが混在しています。
これが後半から終盤になると、なかなか面白くなってくる。
なるほど、これをちゃんとやったら凄く盛り上がる話だなと思いますが、あえて外した演出をしているのですね。
ラストも良い。
こちらこそリメイクし甲斐のある作品じゃないかと思います。
Vシネって、スケジュールが非常にきつくて、もの凄い短時間で一気に作ったのだそうです。
そのため、完成度はある程度諦めるしかない。
でも、音楽作品でもそうですが、完成度と引き換えに勢いの様なものがあって、案外時間をかけたものより面白かったりします。
感覚的に撮るしかないので、監督の個性もよく出ます。
今回のリメイク公開を機に、この2作が多く観られる様になると良いですね。