もう我慢できませんでした。

地元の映画館では6月からの公開なのですが、胸糞映画ファンからの評判が凄まじいのです。

「最悪だった?」

「最悪だった!」

という会話が、お天気の話でもする様に、あちこちでされています。

 

このままではうっかりネタバレをされてしまうのも時間の問題です。

何より、「どんな最悪なのだろう?」とワクワク想像している内に、その想像が実際の内容を越えてしまい、ようやく観た際には「なあんだ」とガッカリしてしまう可能性も。

何しろ、邦題「胸騒ぎ」が命名されるずっと前から期待していた映画です。

今すぐ観なければ。

 

そこで、車で1時間半かけて沼津まで行き、観てきました。

静岡の「胸騒ぎ」ファンが大量にいる可能性もあるため、早めに着いてチケットを買うと「今のところ予約は無いのでお席は自由に選べます」とのこと。

近くでラーメンを食べて戻り、席に着いても一人。

上映終了までずっと一人きりでした。

いいですか。

この映画を劇場で、たった一人で観たのです。

この事は忘れないでいただきたい。

 

「いいから、最悪だったのかどうかを聞かせろ」、という胸糞映画ファンに向けて、朗報があります。

バッチリ、最悪でした!

「ファニーゲームを越えた?」なんて煽り文句もありますが、全然、余裕で超えていますので。

今後の胸糞映画を語る際の基準となる映画になりますので、ちゃんと会話に加わりたければすぐに劇場へ向かいましょう。

 

さて、内容についてですが・・・。

恐ろしいのは本当に終盤になってからで、そこは本当にヤバいです。

じゃあ、それまではと言うと、実は結構笑える部分が多いのです。

旅行で知り合った家族から後日、泊まりに来ないかとお誘いが来る。

こちらはデンマーク、あちらはオランダ。

まあ、車で行けるから、断るのも悪いから、と行ってはみたものの・・・というお話です。

 

途中まではスリラーとしてドキドキ観ていましたよ。

でも、子供のダンスシーンでは腹がよじれるくらい笑ってしまいました!

あそこ、完全にコントですよね。

実はこの監督、前に撮った映画はコメディーなのだとか。

確かにこの映画のシチュエーションって、コメディー向きだと思います。

 

しかも、この映画を撮ったきっかけは、監督が実際旅行先でアドレスを交換した相手からこういった誘いがあった事なのだとか。

実際は断ってしまったが、行っていたらどうなっていたかを想像したらこんなお話になったって・・・この監督、相当な意地悪ですね!

 

前の映画は付き合った女性から酷い目に遭う話で、今回は知り合った家族から酷い目に遭う話。

どちらも主人公が気弱で、言いなりになってしまうお話です。

これって、きっと監督自身がそういう人なのでしょう。

ちゃんと!断らないと!もっと毅然としないと!こ~んなに酷い目に遭うのだから!

と、自分に言い聞かせるために撮っているのでしょうか?

でも、結局は愛想笑いで頷いてしまい、また落ち込んだりしているのでしょうか。

 

相手の家族の無神経な感じも嫌な感じですが、主人公夫婦にも「ちょっとどうなの」と思ってしまう場面が少なく無かったです。

いや、むしろ相手夫婦の方が論理的に見えてしまう場面の方が多かった気がします。

特に主人公の奥さんは、ちょっと嫌な感じに描かれていた気がしますね。

もしかしたら、僕自身も主人公に近い気質なのかもしれませんが・・・。

 

最後まで観終わると、「ウ~ン、文句なしに面白かったし、最悪だった。でも、この話って一体何なんだ?」と考え込んでしまいました。

確かにスリラーとして恐かったなら、それで良いのかもしれません。

でも、この映画は明らかに色々と不自然と言うか、あまり現実的では無いと感じられる展開が多いのです。

 

よくホラー映画の感想等で、「登場人物の行動がおかしくてイライラし、楽しめなかった」という意見があります。

普通ならそんな行動はしない、助かる方法があるのにそれをしないのがおかしいと感じ、バカバカしくなってしまうのでしょう。

この映画、そんな事のオンパレードです。

むしろ、あえてそう思わせようとしているみたいです。

 

人間同士のやり取りのシーン等は「あるある」感があってリアリティがあるのに、全体としては妙に寓話的に感じます。

この映画の原題は「speak no evil」。

「see no evil, hear no evil, speak no evil」が「見ざる、聞かざる、言わざる」ですから、「言わざる」つまり「差しさわりのある事は言わないでおこう」という意味です。

主人公達は体面を考え、はっきりと拒絶が出来なかったためにとんでもない事になってしまうので、それを表しているのでしょうか。

そう言えば、この映画で一番ショッキングなあるシーン。

あれも、この原題を思わせますよね。

ただ衝撃的にするためにこうしただけではなく、色々と象徴したものがあるのでしょう。

スタッフロールでは宗教画みたいなのも登場するので、宗教的な意味合いもある話なのかと思いましたが、そうでも無いみたいです(演出として利用する程度らしい)。

ただ、この絵がどういう絵かを知ると、なるほどとは思いますね。