「コロニア・ディグニタ」について知ったのは、少し前に公開されたストップモーションアニメ映画「オオカミの家」でした。

この映画自体でははっきりと描かれているわけではないのですが、監督が「コロニア・ディグニタの広報ビデオ」という設定で作ったと話していたのです。

 

「コロニア・ディグニタ」というチリに実際にあった施設については、知っていた人は少ないと思います。

ナチス残党によって設立されたこの施設は、キリスト教の教義をモデルにした「尊厳慈善および教育協会」として運営されていましたが、実際は洗脳、拷問、殺人、児童虐待が横行するカルト団体でした。

「オオカミの家」は、団体から逃げ出した少女が、結局逃げられずに施設へと戻るという内容・・・ではあったのですが、強烈なビジュアル・インパクトに圧倒されて意味が分かる人はほとんどいなかったと思います。

 

 

チリの軍事政権下では、ここで反政府派を収容して拷問や人体実験が行われたそうです。

つまりは政府の庇護の元、やりたい放題だったという事・・・。

何か思い当るものがありますよね。

また、この映画では男児を主人公とし、彼が指導者によって性虐待を受ける内容が中心となります。

これって、まさにジャニーズ。

今の日本が、いかにカルト国家であるかを実感するには良い教材なのです。

 

この施設内で生まれた子どもはすぐに親から引き離され、保母によって育てられるため、親が誰かも知らないそうです。

これは「サクラメント 死の楽園」で描かれた、集団自決で有名な「人民寺院」を思い起こします。

カルトのやり口はとてもシステマチック。

おそらくマニュアルがあって、それに忠実に行われるのでしょう。

 

「サクラメント 死の楽園」は、ミア・ゴスの出世作となった「エックス」「パール」のタイ・ウェスト監督の映画です。

いわゆる「モキュメンタリー(疑似ドキュメンタリー)」の体裁で作られた作品のため、他の作品とは違ってふざけた感じは無く、徹底的に無惨さを強調した内容です。

ドラマ性に乏しいので娯楽的にはイマイチですが、「人民寺院」の事件について知りたければ役に立つと思います。

 

本作はもっとシンプルに、少年の目から「コロニア・ディグニタ」の恐ろしさ、気持ち悪さ、異常さを「ベール越しに」描いた作品です。

直接的な暴力描写や性描写を見せずに、しかし圧倒的にそれを暗示させる表現で描いています。

そのため、ショッキングなものを期待して観ると肩すかしを食らうかもしれません。

でも、このくらいの表現がこの映画にはちょうど良いと思います。

過剰過ぎない方が、より「同じ様なものへの注意喚起」を呼び起こせるからです。

 

本当に素朴な作りの映画なのですが、終盤のある演出にちょっと驚かされます。

終わったかと思ったらもうちょっと続くのですが、あそこの描写が非常に良かったです。

そのまま終わってしまった方が、味わい深かったかもしれません。

ただ、あれをアリにしてしまうと、そもそもこの映画の意義がおかしくなってしまうという判断でこうした、というのも理解できます。

 

この映画の内容自体は、我々にはさほどショッキングに感じないかもしれません。

実はそれが一番恐ろしい事なのです。

なぜなら、日本自体がすでにカルト国家であるからです。

外から入ってきた主人公とは違い、生まれた時からこのコミュニティの中で育った少年も出てきますが、彼にはそこの何がおかしいのかすら理解できません。

教育によって、ただ考えずに従う事こそが美徳であると洗脳された家畜。

これは日本人の大多数の姿と同じです。

 

主人公の少年は、元気で、歌う事が好きで、いたずらも大好きだったのに、終盤では無気力で表情に乏しくなってしまいます。

日本でも、みんなそうじゃないですか。

選択肢は、奴隷を続けるが、逃げる(自死)かの2択だけ。

本当はそうじゃないのに、もうそれしかないと思わされてしまっているのです。

 

ちなみに、「コロニア・ディグニタ(尊厳のコロニー)」は指導者の逮捕、死後も名前を変えて、レクレーション施設として現存しているそうです。

名前を変えて継続・・・。

さらに、被害者救済及び行方不明者捜索の総責任を負うことになった人物は、かつてあらゆる告発からこの施設を守り続けた弁護士なのだとか。

同じ様な事が、まるでお手本でもあるように、統一教会やジャニーズでも行われていますよね・・・。