メガ・ミックスとは「複数の曲を連続で短く切り替えるリミックス(ウィキペディアより)」です。

まさにこの映画はこれ。

怒涛の様に押し寄せる主人公の人生の様々な瞬間を、ひたすら浴びる体験となっています。

DJノーランによる選曲と繋ぎを楽しむ映画だと言えます。

 

1回観ただけですべてを理解する事は不可能ですが、それでも問題無く楽しめる作りになっています。

音楽を聴いている時、すべての音を把握しているわけではないでしょう。

自分が気持ち良いと思う音に集中していれば、それで楽しむ事はできます。

この映画も同様で、分からない部分や興味の無い部分はスルーしていく事が重要です。

とにかく場面は次々と変化していきますので。

 

正直、あまり興味のある映画ではありませんでした。

まず、監督のクリストファー・ノーランがそれほど好きでは無いからです。

「テネット」は本当につまらなかった・・・。

彼の、特にアクションシーンの退屈さはどうにもなりません。

あと、長いでしょう。

たとえ題材が面白そうでも、躊躇してしまうのです。

 

そして題材となる「原爆の父」にも興味が無いのです・・・。

いや、原爆には当然興味ありますよ。

でも、開発した人間には無い、というのが正直なところです。

「はだしのゲン」の実写版だったら前売り券買ってでも観に行ったと思います。

 

 

本来なら昨年公開されるはずだった映画ですが、日本ではなぜか未公開。

理由は不明ですが、狂人自称愛国者達からのおぞましい嫌がらせを恐れたとか、そういう理由なのでしょうか。

結果的に、アカデミー賞の後で話題性も高まった段階での公開となったのは良かったと思います。

 

僕も、昨年の公開だったら観に行かなかったと思います。

でも、この映画についての様々な意見や、アメリカでウルトラ大ヒットしたという話を聞くと、内容を確認してみたくなってしまったのでした。

地獄の3時間になる可能性はかなり大きい・・・。

本当に戦々恐々と観に行ったのです。

 

結果的には、思った以上に楽しめました。

もちろん、3時間は長かった。

でも、DJノーランの構成はなかなか巧みでしたね。

ピークタイムと言える「トリニティ実験」までの徐々に盛り上げる感じ、そしてその実験描写の凝りに凝ったシーンは本当に凄まじかった。

本当に怖さを感じました。

 

そういう期待された部分はきっちりとやりながら、アート映画の様な心象風景の映像化のユニークさや、男女の愛憎劇、裁判劇の面白さ等、やりたい事もたっぷり盛り込み、実際どれも良く出来ていたと思います。

特に、グロテスクとも言える恐ろしい幻想シーンの映像と音響は本当に必見で、これだけでも観る価値はあると思います。

 

なぜこういう場面が無い?どうしてあんなシーンが要る?といった意見は多いと思いますが、これがDJの選曲ですから。

「なんであの曲やらない!」「もう1曲やれ!もう1曲やれ!」とゴネるお客さんみたいなものです。

 

核の恐ろしさにスポットを当てた作品ではありませんが、しかしこの映画だけだと原爆は「ただの大規模な爆弾」みたいなイメージです。

本当は、その後に延々と続く放射能汚染による健康被害等が一番の怖さなのですが、そこが無いのは物足りなく感じます。

実際、実験場の近隣に住んでいた人々は今でも健康被害を受けていて、一切補償されていないそうです。

 

まあ、そんな部分があったら余計日本では公開出来ないか・・・。

原爆を落とされても大量に原発を作り、地震で大変な事故が起こってもなお原発を止めず、さらに推進していく国を見たら、オッペンハイマーも開いた口が塞がらないのでは?

今の状態では、もし重大な原発事故が起きても「放射能、本当は健康に良いのです!むしろ浴びて、ゴジラみたいに元気になろう!」とテレビで流すのでしょうね・・・。

自ら滅び行く国には、もうあらゆる兵器は不要なのです。