面白い映画でした!

なるほど、こういう映画なのか。

結構前から期待していた映画でしたが、まさかアカデミー賞でここまで注目される様な作品だとは。

でも、観てみれば納得です。

観た人それぞれの楽しみ方が出来る、芸術性と娯楽性を兼ね備えた見事な作品だったと思います。

 

まず、このタイトルが良いです。

普通にカッコ良い。

いかにもミステリー作品の様です。

この作品はミステリーを期待すると肩すかしされると言われていますが、そうでしょうか?

 

僕はミステリー的な面白さを十分に兼ね備えていると感じました。

真相をはっきり描かないミステリーというのは、あるのです。

日本で有名なのは江戸川乱歩の「陰獣」です。

一応の解決を描きつつ、そうでない可能性を暗示させる。

そもそも探偵が語る真相が本当に正しいのか?

意図的に真相を捻じ曲げている可能性は?

そういう問いかけをするミステリーだってあるのです。

 

まさにミステリーは解剖です。

きちんと包装をして見栄えを良くした人間や家庭の様相を、表面を切り裂き、中身を抉り、臓器を取り出して並べ、多くの人の前で見世物にしてしまう。

これは悪魔の所業です。

そして、この映画はまさにそれを描いているのです。

 

何より、いきなり死体で登場する主人公の夫。

非常に重要な役なのに、彼がどういう人物だったのかは意図的に後半まで描かれません。

それにより、観客の意識は操作されてしまうわけですが、これもミステリーでよく使われる手法です。

視覚障害を持つ息子も非常に重要な役どころですが、やはりその感情は見えません。

それらが少しずつ見えてくる過程も、ミステリー的だと言えます。

 

ただし、この映画には探偵役がいないのです。

弁護士もいますが、目的のために平気で真実を捻じ曲げる事自体が仕事ですから、探偵にはなりません。

適任がいるじゃありませんか。

そう、冒頭からラストまで美味しい所を持っていく天才盲導犬です!

 

正直、この映画で一番感情を揺さぶられたのはこの犬でした。

ピンチになったシーンは本当に衝撃を受けたし、無事になった瞬間(昨今、犬の無事はネタバレにならないそうです)は思わず声が出てしまいました。

犬が無事で良かった。

人間どもは死んでも良いよ!

 

ほんとうに賢い顔をしているので、彼が推理したらこんなに素敵な映画は無いでしょう。

ワンワン!「今すぐ全員を集めてください!」

ワンワン!「この中に犯人がいます!」

ワッフン!「松子夫人、あなたですね・・・?」

昔は猫でも出来たそうですから、犬ならまず問題無いはずです。

 

いや、それにしても後半の盛り上がりは素晴らしかった。

あの夫婦喧嘩の地獄絵図。

これこれ、こういうのが観たかった!

それをみんなの前で公開されるという、さらなる地獄!

もう犯人で結構です!と叫びたくなっても不思議じゃないほどです。

裁判っておぞましいですね。

 

何もかもがさらけ出され、明らかになった。

わけではありません。

サンドラ・ヒュラー演じる、主人公であり母親であり妻でもある彼女の心は、よく考えたらさっぱり分からないのでした・・・。

まさに鋼鉄、封印された心。

これこそが永遠のミステリーなのです。