いや~、絶賛仕事やめたい中の身としては、キツイ映画でしたね。

人権?人間性?倫理?平等?

そういうものをすべて換金する事が、働くって事だろ!

多かれ少なかれ、日本という衰退国家で働く人の多くがそんな気持ちで労働し、日に百回でも二百回でも「ハ~、仕事やめたい」と思っているのではないでしょうか。

 

とにかくこの映画、主人公の労働時間の長さが凄い。

誰よりも早く日が昇る前に出社して、みんながもう帰った後、上司から「もう帰れ」と言われるまで働く女性なのです。

休み時間もほとんど無く、会社の中で合間に何かを口に入れるだけ。

これが労働シュミレーションゲームなら、鬱ゲージがあっという間に上昇し、「主人公は自ら死んでしまいました。ゲームオーバー」となるでしょう。

 

映画プロデューサーを志望して映画の会社に入ったのに、やっている事はウルトラ雑用の連続。

テキパキとこなしてはいきますが、創造性ゼロ。

そもそも、彼女が何をやりたいのか、そういった夢を描くシーンは一切ありません。

ただひたすら、結婚後のガッキーみたいな死んだ目で、黙々と雑用をする様を見せるだけの映画なのです。

 

その辺に関してはもう割り切った感じなのですが、会長の性加害だけには勘弁ならない!

被害者となるだろう女性も守らなくては!

このままでは観客が全員寝てしまうし、ここでいっちょ立ち上がるのじゃ!

その辺がクライマックスなのでしょうが・・・。

 

本当に、娯楽性皆無の映画です。

そういう意図で作られているからでしょう。

ただただ、主人公の体験とストレスを劇場で体感してもらおうと。

でもこれ、その意図が伝わる前にみんな寝ちゃうよ、とは思いましたね。

 

これがコメディだったら?

途中で変な子供が、延々と動物の鳴きまねをするシーンがあって、ここはかなり笑ってしまいました。

笑えるって楽しいな!

コメディにもなる内容なのに、とも思いましたが、それじゃ意味がないのでしょう。

また、性加害の告発や被害者を救おうとするシーンを緊迫感たっぷりに描いたらサスペンスにもなったかもしれません。

でも、やっぱり意味がないのです。

 

とにかく、苦痛を感じて欲しい。

そして、虚無を感じて欲しい。

映画が終わった時の解放感は、まさに主人公のそれと同じです。

ただ、こちらはもうこの映画を観る必要はありませんが、彼女には明日がある。

明日があるさ、明日がある。

それがどんなに絶望的な事か・・・!

 

女性の職場における様々な苦痛を描いた内容だと思いますが、男にだって共感できる部分はたくさんあります。

様々な「間違い」を、次から次へと、右から左に受け流す。

会社からは確実に人間ではなく、部品にしか思われていない。

どこかが壊れれば、そこに代替が埋められるだけ。

また壊れるまで。

成長だとか将来だとかは関係ない。

今がどうにかなれば良いし、ならなくても責任は取るヤツがいるので問題無い。

誰も彼も、国や会社からの搾取の対象でしかないのです。

 

彼女は優秀なので、おそらくそれなりの地位になって、そこでもそれなりにうまく立ち振る舞うでしょう。

それほど暗いわけではない。

それに比べ・・・

俺は・・・。

いや、もう考えるのは止しましょう。

 

非常によく出来た映画ですが、娯楽作品には意図的にしていないため、基本面白くはありません。

極めて冷静で丁寧な仕事の愚痴を聞かされているみたい。

そんな映画があって良いのです。

仕事が我慢できているのなら、この映画だってきっと我慢できる!(したくないか)