久々のシリーズ胸糞ですが、今回はこのジャンルの金字塔の1つです。

ホラーファンなら誰もが評判を聞いた事がある、恐ろしい作品です。

僕は随分前に一度観た事がありますが、現在アマプラで観られるのが後わずかという事で、確認のためにもう一度観ました。

 

・・・やっぱり凄まじい作品です。

でも、好きな映画ではありません。

ホラー映画というジャンルにおいて、特別な探究心のある人でなければ、観る必要は無いでしょう。

かつてmixiでレビューを書きましたが、当時はネタバレを考慮して内容にはほとんど触れませんでしたので、今回はもう少し踏み込んで書きたいと思います(直接的なネタバレはしません)。

 

フレンチホラーが盛り上がった時期がありました。

同じ時期に、極めてホラー史において重要な作品が4つ公開されたのです。

アレクサンドル・アジャ監督の「ハイテンション」。

ジュリアン・モーリー&アレクサンドル・バスティロ監督の「屋敷女」。

ザヴィエ・ジャン監督の「フロンティア」。

そしてパスカル・ロジェ監督の「マーターズ」です。

 

まるでスラッシュメタル四天王、メタリカ、メガデス、スレイヤー、アンスラックスみたいですよね。

個人的に一番好きなのはメガデス・・・じゃなくて「屋敷女」です。

ブルーレイも持っています。

リミッター抜きで本当に怖いホラーは?と聞かれたら、これだと言います。

 

一番困ってしまうのが、今回の「マーターズ」です。

正直言いますと、一番印象に残る、一番リミッターの降り切れた作品はこれなのですが・・・。

人には薦めないし、好きな作品だと言いたくもありません。

実際、好きではありません。

 

そうは言っても、前に観たのはかなり前ですから、今回観直して「そうか、そういう話だったか」と忘れていた部分も少なくはありませんでした。

と言うか、最初から1時間までの素晴らしさはここまでだったか!と感心しました。

凄い。

圧倒的な迫力、キレキレの演出、凄まじい暴力描写!

あの屋敷女を超えるものがあります。

 

加えて、まったく何が起きているのか、この先どうなるのかといった「先の読めなさ」が素晴らしいです。

「は?は?」と何度もショックを受けまくる展開に次ぐ展開!

この映画は一体、なんなのか?

あらゆる意味でのショックに、画面から目が離せません。

 

1時間くらいで、ラスボスみたいなのが登場して、ネタを大体話してくれます。

ここで、この映画の流れは大体終わります。

問題はここからです。

本当に、ここからなのです・・・。

 

具体的には一切書きませんが、この先はずっと、淡々とした暴力と拷問が描かれるだけです。

話の流れは止まり、サスペンスも消え、観るのもおぞましい、嫌悪感マックスになる事間違い無しの映像が延々と続くのです。

でもこれって、前半でもある程度描かれていた描写なのです。

 

最悪の気分です。

退屈なのに、悲惨過ぎて目が離せない。

段々、怒りが込み上がってきます。

拷問をしている連中に?

それもそうですが、何より、こんな映画を作った監督に対してです!

 

その怒りの後には、疑問が残ります。

なぜ。

こんな映画を、どういう気持ちで作ったのだろう。

何を訴えたかったのだろう?

 

終盤はそれでも、大いに盛り上がります。

そして、何やら壮大でスピリチュアルな展開の後の、「さあ、みんなで考えてみよう」的な、謎の残るラスト。

悔しいかな、怒りよりも「何か凄いものを観た」気分になってしまうのです。

凄いけど好きじゃない。

時間を忘れてしまったけど、もう観たくはない・・・。

「こんなのくだらねえんだよ!」という気持ちと、「いや、でもこんな強烈な映画は無い」という気持ちが交互にやって来るのです。

 

本当になんでこんな無残なだけの映画を作ったのか。

酷い話を作る人はたくさんいますが、その意図は大体理解できるものです。

「隣の家の少女」の原作者ジャック・ケッチャム先生は、現実にあった無惨な事件への怒りがあり、それを共有させんとします。

「ファニーゲーム」のミヒャエル・ハネケ監督は、観客に対する実験です。

「ダンサー・イン・ザ・ダーク」のラース・フォン・トリアー監督は、悪ふざけです。

 

でも、この映画に関しては、本当に謎なのです。

とにかくシリアスで冷徹で、最近だとミシェル・フランコ監督の「ニューオーダー」が近いのですが、あの作品はテーマを描く手法として理解が出来ます。

この映画はどうか。

宗教的(キリスト教的)なものを意図しているのか?

逆にそれを皮肉っているのか?

単に少女虐待を趣味的に描きたかったのか?

 

エンドロールの最後に、「ダリオ・アルジェントに捧ぐ」とあるので、やっぱり変態なだけなのかとも思いますが、こんな映画を捧げられても「いや、持って帰ってくれたまえ」と言いたくなりますよね・・・。

心にはベットリと残って消えないけれど、あまり話題にはしたくない。

そんな困った映画が「マーターズ」なのです。