「エクス・マキナ」「MEN 同じ顔の男たち」のアレックス・ガーランド監督の作品という事で、いずれ観たいと思っていました。

ナタリー・ポートマン主演のSF映画です。

 

宇宙から何かが飛来し、灯台に直撃。

その近辺は異様な虹色に包まれた謎の領域「シマー」と呼ばれ、そこに探索に行ったものは皆帰って来ない。

主人公の夫も探索に行くが帰って来ず、あきらめた頃に不意に帰って来たものの、様子がおかしく、やがて血を吐き昏睡状態に。

はたしてそこには何があるのか。

生物学者でもある彼女は自らも探索隊に志願するが・・・。

 

期待したほどは面白くなかったです。

この「シマー」内では、遺伝子が「屈折」することで異常が起こります。

遺伝子が異常を起こして、生物が異常な進化をする・・・みたいな話ですが、細かい事はさておき、要は狂ったクリーチャー、キモい化け物が続々と出てくると思うじゃないですか。

そのための設定としか思えないのだから。

 

ワニが出てきます。

歯がおかしいみたいですが、見た目は普通のワニです。

クマも出ます。

人間の声をコピーするのは面白いものの、見た目はまあまあキモいくらいのクマです。

以上。

 

ハ?

それだけ?

なんでこんな普通の見た目の動物が2体だけなんだよ!

やる気あんのか!

 

やる気はあったかもしれません。

A24出資で自由に作った「MEN 同じ顔の男たち」では、あんなにキモいシーンを撮ったのですから。

おそらく、本当にやりたい表現が出来なかったのではないかと思います。

 

そもそも、内容が分かり辛いという理由で、作り直す事を求められたものの監督はこれを拒否。

そのため、全世界配給権はネットフリックスに売却されてしまったという経緯があります。

日本公開もされませんでした。

 

確かに、最後まで観ても何をやりたかったのかがよく分かりません。

話自体はシンプルだし、結末もSF映画としてはよくあるタイプです。

ただ、宇宙から飛来したこの空間、領域が何なのかは最後まで分かりません。

主人公のドラマとしても不完全な印象しかありません。

 

どうやら、この領域においては、地球の生物(植物や動物)をコピーする力があったようです。

そして、そこに入った生物の遺伝子自体も異常になっていく。

僕はこれに、AI技術を思い起させました。

 

AIが作成した画像や動画をご覧になった事がある方は、多いでしょう。

画像に関しては本当にきれいなもの、瑕疵のないものも多くありますが、面白いのはやっぱり失敗作です。

何かが欠損していたり、ねじ曲がっていたり、歪んでいたり。

この異様さ、不気味さは、人間が頭で考えてもなかなか出せなかった感覚です。

動画はさらに奇抜で奇怪なものばかり。

なにしろグロテスクです。

笑っちゃいますが。

 

 

 

 

 

 

まだ学習のレベルが低いから。

単純にそういう事なのでしょうが、作られたものからは何故か「悪意」の様なものを感じてしまいました。

人間の気持ち悪さ、醜さ、バカバカしさを、何の配慮もせずに目の前に突き付けられた様な感じです。

人間を散々学習したAIって、その結果本当に人間が嫌いになってしまったのだろう。

勝手にそう思ってしまいました(実際は作り手の悪意かも)。

 

しかし、こうした瑕疵を修正すれば、一から作るのに比べたらとても便利なのは間違いありません。

おそらく、今後は学習も進み、映像や音楽といったジャンルでもAI技術は重宝されると思います。

面倒な部分はAIにやらせて、後は調整をするだけ。

しかし、そんな事を続けていれば、AI無しで何かを作る事もいずれは困難になっていくでしょう。

作り手自体も変容していってしまうのです。

 

そう考えれば、この映画の内容も予言的だと言えます。

主人公は確かに自分のコピーに勝ったが、自分自身も変容してしまった(ことを示唆される)わけですから。

 

そもそも、人間の創作とAI技術に違いはあるのでしょうか?

天から降りてきたまったく新しいアイデアなんてものは無く、すべては過去の模倣から始まるからです。

しかし、すっかり同じ物は出来ません。

うまく模倣出来なかったり、エラーが生じたものをそのまま生かしたり、他の全く別のものをくっつけてしまう事で、結果的に新しいものが生まれるのでしょう。

 

そう考えると、今の未熟なAIによって生まれている奇怪な失敗作もまた、それそのものが新しい創造とも言えるわけです。

少なくとも、人間には想像できないものを生み出しているのですから。

でも、そうしたものを面白がる事自体は、人間にしか出来ない行為であり続けるのです。異常、異質なものを排除するのではなく、それを楽しむ事が出来るのならば、面白いものはこれからも生み出されると思います。