本当に良く出来ているのです。

良い部分はすぐに書けます。

予算もたっぷりあっただろうゴージャスなセットと素晴らしいロケーション。

主人公が見る悪夢的な映像演出。

のっぺりとした平穏な日常と不穏でサスペンスフルな展開の緩急。

 

そして、何と言っても主演のフローレンス・ピューの良さ!

あまり役者の名前とか顔を覚えられないのですが、この人良いな!と思って名前を確認すると「なんだ、ピューさんか!」となる事が多い気がします。

同じ人物とは思えないほどクルクル変わる喜怒哀楽の激しさは、「ミッドサマー」を観た人なら分かってくれると思います。

こういう映画にはピッタリの逸材でしょう。

 

ある事実を隠したまま進む、ミステリー色の強い物語。

これ、前回レビューした「イビルアイ」と同じです。

こちらはやっぱり予算の大きい映画ですから、映画のゴージャス感は段違いです。

でも・・・。

 

この映画をエスバン監督が観たら、おそらくこう言うでしょう。

「は?これで終わり?」

ドッキリ、サプライズ映画ばかりを低予算でも懸命に作り続けた彼には、この映画の中途半端な脚本は、あまりにもあんまりに感じるのではないでしょうか。

「ここから先が面白くなるところだろ!」

 

この映画、劇場公開時に気になっていたものの、タイミングが合わずに見送ったのでした。

その時に、様々な賛否の感想を読んでいました。

仕掛けのある作品であるという事は、序盤から分かるようになっています。

それに関しては、まあ意外性は全然ありません。

エスバン監督なら確実に「そう思わせて実は・・・」とひっくり返す前の、ミスリードで使う程度のネタです。

 

もちろんこの映画はドッキリサプライズを主眼とした映画では無いのでしょう。

突飛な世界観を使って、現実における女性の家族や社会における立場や、男性の無意識で高慢な考え方等を描くのが目的なのでしょうか。

別にそれは良いのです。

正直、観る前からそういう作品だろうと予想はしていたので、特に失望もしませんでした。

 

それにしても、最後に映画のタイトルが登場し、スタッフロールが始まった瞬間には「嘘だろ?何かの間違いだ!」と、この映画中一番のショックを感じてしまったのです。

一体、この映画が何をやろうとしているのか、それがこれからようやく描かれると思っていたのに・・・。

ここで終わっちゃうの。

 

これ、エヴァのテレビ版のラストより酷くないですか?

終盤にはお粗末なカーチェイスとかあって、「そういう事じゃないだろ。」と思いつつも「一体、主人公にこれから何が出来るのだろう?」という興味だけで観ていたのに。

いや、エヴァのテレビ版のラストだって、シンジ君の物語だけにはきちんとケリをつけていました。

この映画、主人公の物語すら、最後まで描けていません。

 

別に、黒幕の目的やその顛末まで描けとは言いませんが、少なくとも彼女がどう生きていくのか、それを描くには絶対にまだ足りないのです。

そもそも、あそこまでは一度辿りついているわけですから。

そこで終わるのはありえないのです。

 

やはり、世界の崩壊までは描くべきでした。

この設定なら、そうとう強烈な映像を見せる事ができたと思います。

様々な伏線も放置されたまま。

主人公の本来の職業とかも、絶対活かすべきでしょう。

どうしてこんな未完成な脚本のまま、映画が作られてしまったのでしょうか?

 

スタッフ、キャスト、本当に頑張ったと思います。

でも、こんな終わり方になると知っていたのでしょうか?

 

「あの後、どうなるのだろうね。」

「誰にも教えていないらしいよ。トップ・シークレットなんだ。」

「きっとネタを盗まれない様に、我々にも秘密なのだろう。」

「さすがにピューは知っているだろ?」

「マジで知らない。」

「またまた(笑)」

 

一番驚いたのは、完成した作品を観た彼らかもしれませんね・・・。