スター・ウォーズファンから親の仇の様に嫌われているライアン・ジョンソン監督が、「宇宙なんて知るか!俺のやりたいのはコッチじゃ」とばかりに「ナイブス・アウト」の続編を作りました。
前作は劇場で観ましたが、今回は残念ながら配信のみ(今のところ)。
しかし、映画的には格段にこちらの方がスケールアップ、娯楽性もアップしているのです。
前作のトリックについては、個人的には非常に好きでした。
ただ、ある程度ミステリーを読んでいるような人でないと面白さが伝わらないものであったと思います。
彼の特徴としては「基本的な様式」がまずあって、それをひっくり返したり壊したりする事に一番興味があるようなのです。
その「様式」を知っていないと、彼のやろうとした事が理解できないのかもしれません。
スターウォーズのエピソード8については、そもそもファンで無かった僕にとっては何の衝撃も憤りも無かったのですが、彼にしてみればつまらない客だったのでしょう。
一方、ミステリーの定型はよく分かっているので、このシリーズの楽しみ方はバッチリ分かるのです。
そして本作「グラス・オニオン」。
金持ちの所有する孤島に、怪しげな有象無象が集められ、そこで殺人事件が起こるという、まさに超の付くミステリーの様式美の設定です。
警察はいないが、探偵はいる!
無粋な邪魔者無く、純粋に事件の謎に没頭できるシチュエーションです。
これだけでミステリーファンは無視できないはずです。
今回感心したのは、本作が前作よりも「映画」を意識して作られている事です。
ミステリー部分に興味が持てなくても、後半部分の面白さは誰にでも伝わるでしょう。
また、終盤には映像的に盛り上がるクライマックスも設けられています。
比較的地味だった前作の反省点を、きちんとクリアしていると思います。
それでも前半が退屈という感想がありますが、もうこれはミステリーという性質上仕方ありません。
どうしても「前提として知っておいて欲しい情報」を知る、修行の時間が必須なのです。
今回は、序盤のパズルだとか主演のダニエル・グレイグによるコメディ演技等で、かなり楽しくしようとする努力が見られ、個人的には前作より退屈には感じませんでした。
映画としては普通のサスペンスものとしてシンプルに楽しめますが、ミステリーだのトリックだのを期待した場合、肩透かしを食らう人も多いと思います。
これは、わざとやっています。
それがやりたかったからです。
なるほど~、こういうパターンか!
類型的なミステリーを想像していたマニアにはニヤリの設定でしょう。
そうか、だからこのタイトル・・・。
今のご時世を存分に反映してもおり、非常にユニークなアイデアだと思います。
でも、シンプルに謎解きに挑戦していた方は怒るかもしれませんね・・・。
まあ、こういう監督なのです。
こういう作風でシリーズを続けられるのか?と心配になるかもしれませんが、大丈夫です。
こういった意地悪な作風でいくつも作品を書き続ける作家が、日本には何人もいるからです。
それよりも、純粋なミステリーの面白さを伝えてくれる映画やドラマが、日本にももっと増えれば良いと思います。
昨年の「霊媒探偵・城塚翡翠」は、原作者がかなり脚本に意見を出したので、非常に良質な本格ミステリードラマになっていました。
「まずは疑ってみる」「違う角度から見直してみる」というミステリー的な考え方は、今の時代、非常に重要になってきていますからね。