前に「ザ・グラッジ」を観に行った時に、パンフレットが置いてあって知ったのがこの映画の上映です。

ご存知シュワちゃん映画の傑作の部類に入る方の映画であると同時に、ポール・ヴァーホーヴェン監督のヒット作でもあるという非常に重要な映画です。

昔はテレビでよく放映されていましたが、今の世ではとても放映できないため、もう随分観ていません。

 

おまけに日本語吹替での上映もあるとの事。

個人的に、シュワちゃんは日本語を喋らないと強い違和感があるので、どれでも必ず吹替で観ます。

劇場では体温を測られるも装置がまったく反応しないため「この人死んでいるのでは?」と怪訝な顔をされつつも、「トータル・リコール 4Kデジタルリマスター」をようやく観に行ってきました。

静岡市では2Kでの上映でしたが・・・。

 

たった一人での鑑賞でしたが、やっぱり圧倒的に面白かったです。

娯楽映画の水準って、当時はこんなに高かったのだな、と感心しました。

面白いシーン、残虐なシーン、エロいシーン、滅茶苦茶なシーンが次々と登場するので、休む間が無いほどです。

 

途中、シュワちゃんが弾を避けるために一般人を盾にするシーンがありますが、盾にされた人のあまりに悲惨な顛末が明らかにギャグとして撮られていて、笑えましたね。

シャロン・ストーンの唸るような美貌とアクションも必見。

何より特殊効果や特殊メイクの古びない素晴らしさ!

シュワちゃん映画の金字塔と言えば「コマンドー」ですが、あれに匹敵する面白シーンの忙しさに加え、物語自体も非常に凝っていて、なんとも贅沢な映画なのです。

 

シュワちゃんが人を殺す事で話が進む展開はいつも通りですが、実はお話自体は非常にきちんとしたSFとなっています。

原作はフィリップ・K・ディックの「追憶売ります」なので当たり前と思うかもしれませんが、「バトルランナー」を思い出してください。

キングの作品の中でもトップクラスの面白さと過激さを兼ね備えた原作(自分の評価です)を、変な服を着たシュワちゃんがバカを順番に殺すだけの内容にしてしまっています(映画は映画で大好きですが)。

 

それに比べたら、この作品は「記憶」というものの曖昧さや、自分という存在が信じられなくなる事の恐ろしさを強烈に叩きつけるシーンが随所にきちんと登場します。

今まで現実と思っていた事が、実は作られたニセの記憶なのかもしれない。

最終的にどんな場面でも元気に暴れて乗り越えるシュワちゃんが主役なので、観ている間はあまり気になりませんが、実は非常に恐ろしい物語なのだと、あらためて感じました。

 

どこまでが現実で、どこまでが妄想や夢なのか分からない。

そういう演出の映画は多くあります。

最近では「ジョーカー」が、意図的にそこの境界を曖昧にする事で、議論を呼ぶ作品となっていました。

この「トータル・リコール」も、単なるアクション大作の様に作られていますが、実は「何が本当で何が夢なのか」についてわざとはっきりと分からない様に作られた、非常に難解かつ挑戦的な話になっているのです。

 

そもそも、この冒険自体が夢なのか現実なのか。

どちらを選んでも、それに反する様な要素があると思います。

映画で描かれていない部分に勝手な推測を加えさえれば、どうとでもなるのですが。

ただ、ここをはっきりさせない事自体が重要なのです。

分からない事で不安な気持ちになる事こそが、この作品のテーマそのものだと思うからです。

 

一番感心したのは、最後のシュワちゃんとヒロインの会話です。

「もしかしたらこれも全部夢なのかもしれない」というシュワちゃんに対して「じゃあ、夢が覚める前にキスしましょう」というヒロイン。

この軽妙さは本当に素晴らしいと思いました。

大人な映画だな、と感心したのです。

 

何が現実で、どこまでが夢か。

何が本当の自分で、何が偽りの自分か。

そんな、哲学的なテーマの物語の最後が、こういう軽いユーモアで閉められるという点に感心したのは、今の年齢になったからかもしれません。

結局、悩んだって仕方ないのです。

軽く誤魔化された様でいて、実は疑問に対する誠実な回答だとも言えます。

 

ヴァーホーヴェン監督の「スターシップ・トゥルーパーズ」もそうでしたが、まず娯楽映画として誰でも楽しめる様に作っておいて、その中で言いたい事はハッキリ言わせてもらう、というスタイルは本当に大人だな、カッコ良いな、と思います。

強烈なメッセージや難解なテーマをさりげなく入れておいて、でもそこはあえて強調しない。

だから、彼の映画は子供の頃観た時と大人になってから観た時の印象はガラリと変わると思います。

なので、彼の他の映画もどんどんリバイバル上映されて欲しいですね。