「みんなが僕のことを見るんだよ。子ども一人でお風呂に入ってるから」

そう呟いた息子の目は涙こそ溢れていなかったが、真っ赤になり、涙に潤んでいた。


元夫が失踪して、数ヶ月経った頃、気分転換にと連れて行った日帰り温泉での出来事だ。
姪も含めて娘と私と出かけたのだった。

その当時小学5年生だった息子は、当然一人で男湯に入ることになった。
(それから何年も息子は日帰り温泉には行かなくなったのだった)


その涙で潤んでいた姿を見て、私は元夫を憎んだ。
こんなにも悲しい思いを子どもたちにさせる男を。

そして。
私はその時に決意した。
私がこの子達を守るんだと。
泣かせるようなことは私がしない。
いや、泣かせるような人がいたら私が許しやしないと。



そして今。

真っ赤に涙で潤んでいた目をしていた息子は、思いがけないほど明るくタフな男に育った。

最近は年度末で忙しく、あまり残業のない会社なのに、夜10時過ぎることもザラだ。
それでも疲れを見せず、うはははとテレビを見て笑っている。

では朝は機嫌悪いのでは、と思えるのだが、それも朝から踊ってリビングに現れる元気さなのだ。

ある時聞いたことがある。
「イライラとかしないの?」
「イライラしたら自分が損じゃない」
との答え。

損得でイライラを回避出来るなんて驚きだ。



あの時。
涙で潤んでいた君の心の傷は残っていないのかな?
趣味は「サウナ」と答える君。

悲しいことを乗り越えて今幸せに暮らしている君を見て、母は思う。



私が君を守ってきたのではなく、君が私を支えてきたのだと。

妊娠10ヶ月で死産したこと
それに続く裁判を記した著書
元夫の失踪についても記している