「はい、では、最寄りの駅から家までの道順を説明してもらえますか」

 

小学6年生の私は、中学校受験の面接中だった。

 

「はい、駅の改札を出て左方向に進み……えと、えと……」

 

パニックになった。

自分の家の方向が西か東かもわからない……頭が真っ白で答えが思い浮かばない。

 

「駅の近くに商店街あったよね?商店街の方かな?反対側なのかな?」

困っている私を見て、面接官が合いの手を入れくれた。

 

「はい、あります。反対側です!」

 

と元気に答えるが、その先の答えが出てこない。

だめだ、帰りたい……暫くして面接官の一人が

 

「はい、では違う質問にしましょうか」

 

答えられなかった。

その後は失敗がショックで、あまり覚えていない。

 

面接が終わり、挨拶をして部屋を出て、校舎の外で待ってくれている母の元に駆け寄った

 

「お母さん、終わった!答えられなかった質問があって、不合格になるかもしれない」と話すと、

 

「そっか、その時はその時だね」と母は答え、少し失敗が和らいだ感じがした。

 

後日、合否通知が届き、結果は「不合格」だった。

 

第一志望だっただけにショックだったが、不合格の原因は、面接の失敗だけではないと思ったので、これは仕方ないと思った。

それよりも、次の学校の面接でも同じ質問が出たら、どうやって答えるかの特訓をする必要があった。

特訓の前に、自分の頭の中で道順を考える

練習相手は家庭教師の先生

 

「よし、先生よろしくお願いします」

 

「では、最寄りの駅からお家までの道順を教えてもらえますか」

 

「はい、駅の改札を出て左方向に進み、階段を下ります。そこから道なりにまっすぐ進んでいくと……」

 

あれ、また言葉が出ない……止まる。

 

「ちょっと止めようか」

 

面接の時より進んだものの、また止まってしまった。

 

当時、マリオゲームにはまっていた私は、ゲームのようだと感じていた。

スタートからスタートダッシュをかけて走るマリオの前に、栗のような形をした敵「クリボー」が現れる。

あっけなく捕まってしまい、また初めから。

次こそは捕まらない……とイメージトレーニングをしてスタートし、クリボーがいる場所やよけ方などコツを掴んだと思ったら、また次の敵が現れた。次は水玉の花の形をした「パックンフラワー」よけ方のコツがわからず、また最初から。

どれだけ捕まるんだろう……何度も失敗をして、ゴールした時に思った。

 

「あ、そうだ。ゲームの中でどこにどんな敵がいるのか把握していればいいんだ」

 

 

それは、道順も同じだった。

「駅から家までの間に、ゲームでいう敵のようなポイントを作ることで、分かりやすく説明できる。

大したポイントがなくても、作ればいいのだ」

 

そう考え、駅から家の順路のポイントを作り、訓練をした。

そして、ようやく話せるようになったと自信満々になったが、以降面接で同じ質問が出ることはなかった。

 

時を25年経て、そこには手に汗を握り、ソワソワしている私がいた。

「やばい、どうしよう……失敗してしまったら恥ずかしい」

 

できれば逃げたいし、この状況を回避できる方法をずっと考えていた。

会社の研修でチーム内での自己紹介の時に、あの時と全く同じ質問が出たのだった。

逃げることも出来ず私の番が来た。

 

「よし、失敗してもいいや。失敗したらまた最初から話せばいい」

 

と自分自身に直前言い聞かせた。

 

「では、説明します。駅の改札を出て4番で出口に向かうと、目の前に公園があります。その公園の道を道なりに左に進むとベーグルのお店があり……家に到着します」

 

当時の家とは別の場所に住んでいるものの、昔の練習通り自分の番まで、駅から家までのポイントとなる場所をピックアップし、相当シュミレーションしていたので、難なくクリアできた。

スタートから敵に捕まることなく、ゴールに最速でたどり着いた時の「ドヤ感」と同じような感覚があった。

 

と同時に、自分がなぜあれほど恐怖に感じていたかも不思議に感じた。

正直、こんな失敗は、失敗しても後で取り返すこともできるし、大きな失敗でもない。

 

もちろん、仕事などの場面など絶対に失敗できない場面もある。

それでも、そんな時に前に進もうとするか、逃げようとするかで大きな差が出る。

失敗したからこそ分かるポイントや学びがたくさんある

一つ分かったのは、

 

「失敗するかもしれない、怖い……」と逃げようとすると、ゴールには程遠くなるが

失敗するかもしれないけど、その時はまた一からやればいいか」というゲーム感覚でトライした方が、確実にゴールに近づくし、肩の力も抜け、自分らしさが発揮できると言うことだった。