今年もまた新学年の四月になった。

 木々の若葉が生える卯月、若葉風が小窓を通り抜けて物思いにふけっている美穂先生の頬に注いでいた。

 今日に限って校庭で遊ぶ元気あふれる子供の声がない。学校は静まりかえり、浜風に揺れる木々やサトウキビの葉音を仲間と戯れるスズメの鳴き声が一段と響いていた。

 美穂先生は、このまとまりのない多くの先生方が敬遠する六年の学級をどのようにしてまとめていけばよいか、目を閉じて考えていた。

 すると、ザッザッと五・六名の子供が校舎の表側をかけ込む音がした。通り過ぎたかと思うとすぐ大急ぎで引き返して来た。子供たちは右側のガラス窓が20㎝ぐらい開いているのに気が付き、美穂先生をじろっと見つめ(六年の担任は美穂先生だろうかなぁ)と疑問視しながら、犬走を五・六回も駆け足で往復していた。

 子供たちの走る音が止んだ。もう子供たちは他の場所へ行ったのだろうと思った。ところがわんぱくの武(たけし)を先頭に、健太、昇、志乃、綾の5名の子供がそれぞれ棒を手にして、ガタッ ガタッ ガタッと音を立て、少し開いている窓の所に寄ってきた。

 窓ガラスを開ける音がした。子供たちは口を真一文字にして顔を紅潮させ、今にも不満をぶつけるように

「六年の担任は美穂先生ですか?」

と武が尋ねた。 新学期は始まっていない、担任の名前を明かすわけにはいかず

「六年の担任はまだ決まっていませんよ」

と話した。

 

づづく