MBC南日本放送
校長先生の卒業式
生徒たちがサプライズ
「右の者は37年間の公立学校教員の
課程を修了したことを証する」―
生徒らが読み上げたその言葉に、
体育館は温かな拍手に包まれた。
鹿児島市の甲南中学校で、
校長の定年退職を前に、
生徒たちがサプライズを仕掛けた。
その名も「校長先生の卒業式」。
英語教諭として37年間、鹿児島市や
屋久島町など県内一円で教壇に立ち
続けた岩脇勝広校長(60)のために、
生徒たちが秘密裏に準備を進めてきた
特別な式典だ。
3月24日、朝の校内放送が流れる中、
体育館では生徒たちが忙しく動き回る。
ステージの階段の設置や、壇上の
飾りつけなどを手分けして準備を進める。
「ユーモアがあって、楽しい校長先生
でした」そう話す甲南中学生徒会の
八木友晴さん。
「これ、校長先生は知ってるの?」と
尋ねると、「いいえ、知りません」。
岩脇校長はこの日、自分の卒業式が
あることを全く知らされていなかった。
生徒たちの手によって舞台の背面には
「祝 役職定年 岩脇勝広校長先生」と
書かれた横断幕が掲げられ、机の上に
花が飾られた。

知覧町(現・南九州市)出身の岩脇校長は、
英語教諭として長年にわたり県内各地の
子どもたちに向き合い、甲南中学校の
校長として定年の日を迎えようとしていた。
校長には、「全校朝会」ということにして、
生徒会が校長室へ呼びに行く。
卒業証書、授与 ――
37年間の軌跡を一枚に
体育館に集まった生徒たちは制服姿で
床に座り、式の始まりを待った。
やがて、花のコサージュを胸につけた
スーツ姿の岩脇校長が壇上の椅子に
案内された。
司会を務める生徒が「卒業証書、授与」
と発すると、岩脇校長は「えっ」と
驚いたように2回背筋をそらし、
笑顔でいすを立ってステージ中央へ
向かった。

演台を挟んでいつもは校長が立つ側に
生徒が、生徒が立つ側に岩脇校長が
「きをつけ」の姿勢で背筋を伸ばす。
読み上げられた証書の文面には
「第28代 鹿児島市立甲南中学校長
岩脇勝広」と書かれていた。
名前のあと、「右の者は、37年間の
公立学校教員の課程を修了したことを
証する」という声が体育館に響いた。

生徒の手から証書を受け取った校長は
「ありがとうございます」と深々と
頭を下げた。
証書を受け取った岩脇校長は、壇上
から生徒たちへ言葉を贈った。
「皆さん、今日は私のためにこのような
企画をしていただきました。本当に
ありがとうございます」
そして、教師として積み重ねてきた
37年間の思いを込めて、こう続けた。
「皆さん方はひとりひとり、これから
無限の可能性を持っています。
まだ、その自分の良さに気づいてない
人もいるでしょう。しかし、それは
誰かがそっと教えてくれます。
自分の良さを導き出して、自分の
可能性を信じて、最後まで突き進んで
ください」
卒業証書を手に退場する岩脇校長の
周囲では、生徒たちが拍手を送り続けた。
37年という歳月が凝縮された瞬間だった。

式を終えた岩脇校長に、体育館の
外で話を聞いた。
「このような企画があるというのは
知らされていなかったものですから、
非常に感無量です」
「甲南中の校長で終えられるのは
非常に誇りに思っています。
これからも甲南中が元気であって
ほしいと思っています」
37年間の教師生活を歩み終えた校長に
生徒たちが贈った「卒業式」。
先生から生徒へ、生徒から先生へ――
学びと感謝のバトンが渡された。



