「早々と傑作に出会う。(@大人図書館Vol.13)」 栃木県宇都宮市で攀じるパパクライマー | 栃木県宇都宮市で攀じるパパクライマー

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人の親になっても頂きを目指し、家族と共に攀じり続けるパパクライマーの記録

 こういう時代に生きているとノンフィクション物を読まざるを得ない機会が増えてきて、フィクションの領域を凌駕してしまう昨今ですが、本年度も細々と小説を読み続けていきたいと思います。

 

 

 本年最初に手に取ったはピーエル・ルメートル著『悲しみのイレーヌ』。あの傑作「その女アレックス」の前作にあたる作品なのだけど、「その女アレックス」は本作のネタバレになっているので、読むなら本作からをオススメします。

 しかし、問題はそこではない。わたしが思うに、問題はこの邦題にこそある。この邦題は完全にネタバレしているよね。こんな作風の著者にして、この邦題だと、そしてすぐに主人公に妊娠中の妻イレーヌがいるとわかれば、普通誰でも分かるよね。どんな悲劇が待っているのかくらいはさ。妊娠中の妻を持つ昨年の私がこの本を読むのを早々と諦めたのは書くまでもない。

 そんなわけで、今回は2度目のチャレンジなのだった。そして、あーやっぱりねな結末なのだった。最悪。この邦題付けた人どうかしているよ。原題を約してもまったく違う意味になっているじゃないか。なんで、こんな邦題にしたのだ。ミステリーなのにタイトルでネタバレされていたら、なんというかもう純粋に評価できないよ。非常に残念な紹介をされてしまった本作が可哀想でならない。(☆☆☆☆・)

 

 

 2冊目に手に取ったのは米澤穂信著『真実の10メートル手前』。本作は傑作「王とサーカス」の主人公“太刀洗万智記者”のその後を描いた短編集。個人的には「王とサーカス」を読んでなくてもまったく問題ないと思ったけれど、この先の展開を期待せざるを得ないワクワク感は、やはり前作を読んでいるからこそのものかな。各話雰囲気が出ていたし、切り口も違っていてあっという間に読める。いい頃の火サスのような人間模様。(☆☆☆★・)

 

 

 予約本が途切れたので、図書館ぶらぶらしていたら目についた乾くるみ著『イニシエーション・ラブ』を3冊目に挟みつつ(☆★・・・)、

 

 

 4冊目に読んだ山下澄人著『しんせかい』が今回の白眉だ。数行読んで自身にあわなければ本を置いてもらって構いません。先に何があるってわけじゃない。ただ、わたしのように数行でこの昨品が好きだと思えたのなら読み進める価値がある。わたしがいうのもなんだけど、語り口も、文学的な主題も、現代性も、まるっとそこにあり、わたしが目でおっかけているのは紛れもない物語(本)であるはずなのに、読み始めているのと同時に読み終わっているかのような感覚にさえ襲われる、心技体という言葉があるが、まさに著者のバランスがはまった感じが強固に伝わってくる。芥川賞、「コンビニ人間」につづきこんな作品を輩出するとは、まさに21世紀の心的なものがようやく文学に落とし込まれはじめているといったところか。いやさ、新しくないのかもしらんけど。(☆☆☆☆☆)