山行報告【槍ヶ岳北鎌尾根(春合宿・残雪期バリエーションルート)】2日目前編 | 栃木県宇都宮市で攀じるパパクライマー

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2日目は4時起床で530分前に行動開始。食欲はあるものの、高山病症状はいまだ完治しておらず、おまけに下痢がきた(ヒマラヤ遠征時と同じ)。わたしはこの日1日で3度も北鎌尾根に爪痕を残すはめとなったが、そういった高山病症状は、時間のロスをうんだものの、それはそれとして、スローペースで登ればそれだけのことなので、北鎌尾根の山行報告からは省く。たんにサクサク行けるところが行けなかったというだけのことだ。




2日目の出だしは北鎌のコルへのトラバースから。




コルにはもう団体パーティが上がっていて、登るとトレースのお礼を言われ、初日で北鎌沢右俣をつめたことを讃えられました。頑張った甲斐があったというものです。


さて、北鎌尾根はアルパインではなく、バリエーションルートです。登攀要素はほぼなく、基本、岩、雪、氷、ブッシュという変化に富んだルート歩行だと考えてもらえばいいです。技術的難度は低いけれど、どこも結構危険で、まずないでしょうがワンミスすると何百メートルも滑落します。栃木でもここ数年に限っても同尾根では滑落死亡事故、滑落事故が発生しています。危険度はかなり高いコースです。




P9への登り




P9から独標をオブザベする。独標はザイルを出して登る予定です。そうそう、わたしたちは基本コンテをしません。パートナーが落ちても止められる確信がなければ繋ぎません。繋ぐ場合はスタカットです。北鎌でスタカットなんて時間がかかってしょうがないので、結果つながないという判断です。当然、スタカットの必要性があれば出そうと思っていましたが、今回は独標の3ピッチと槍ヶ岳への登り3ピッチ以外ではザイルを出しませんでした。




独標に向かいます。尾根上は人でいっぱい。




北鎌尾根は上画像のような登り下りを繰り返しながら進んでいきます。


わたしたちは今回残置物を一切使わないで登ろうと決めていました。よく、北鎌尾根は「ギアがいらない」という声を聞きます。確かに、すべてのピッチで切りたい場所に残置支点があったので、最小限のギアがあれば足りるでしょう。


でもはっきりいって、それは信用に足らない残置支点だと言わざるを得ない代物でした。独標1ピッチ目の支点の捨て縄は外皮が破れ、中の芯が剥きだしで、芯の内4本が辛うじて繋がっているだけのでした。そんな支点で果たして仲間の安全を確保していると言えるのだろうか。その捨て縄が墜落荷重に耐えられるとわたしには到底思えなかった。


大所帯を率いている立派なリーダーでもその支点を使っていたから、あくまで、わたしが神経質過ぎるのかもしれない。でも残置ありきでバリエーションルートを登るのはどうなんだろう?もし行ってみて残置がなかったら?カムナッツを持って来てないパーティはSRENE(強固/多重性/均等荷重/固定)の判断を最初からやる気がないのだとわたしには感じました。安全性を的確に判断せずに残置を使用する行為は、自分の命を運否天賦に任せているようなものです。やめた方がいいと思います。




そんなわけで、わたしたちは自然のままの本ルートに敬意を表して、さらには自分の身を自分で守るためにも、ナチュラルな方法でクライミングすることにしました。




独標の1ピッチ目の最初の雪壁は確かに急です。雪も腐り気味で、ここは間違いなく確保が必要な箇所でした。




2ピッチ目を登ってくるパートナー。




ザイルを結ばない団体さんのリーダーが登ってきてセカンドを追い抜いてしまったので、わたしはルートを変更して、団体さんの登るルートから外れて中央の雪壁に3ピッチ目のルートを見出しました。カム・ナッツを持ってきてるからこその独自のルート取りが可能なわけです。


バリエーションやアルパインでもっとも危険な要素に他パーティというのがあります。何処の誰か分からない登山者が自分やセカンドの頭上を登っている状態を常に生まないよう努力をしないといけません。


わたしが努力して距離を保っていても、他パーティの意識は違います。わたしたちが登っていても、平気で登ってきて前に出ようとします。危ないですよね?そういう時にその人たちが落石をしてきて怪我したら怒りますか?怒っても時間の無駄だし、そもそもその落石で命を落としていれば怒りようもない。


リスクを回避するためには、常に自分の中に回避できる選択肢を持っていないといけない。今回で言えば、わたしが3ピッチ目を誰もいないルートに設定できたのがそれです。カム・ナッツを装備に加えていればこそできた対処でした。




結果的に独標は上画像のようなルート取りになりました。普通は赤色のルート取りですが、わたしたちは2ピッチ目の最後を青色のように右にトラバースして、3ピッチ目は雪壁を登りました。




そんなこんな独標を登ると、目の前に槍ヶ岳が姿をあらわします。やったー!




素晴らしい景色に感動です。(2日目後編につづく)