近況119.ロック・ミュージカル | 栃木県宇都宮市で攀じるパパクライマー

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みなさん知ってますよね?「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」。ミニシアターブームの先駆けとなり、渋谷シネマライズのスペイン坂に200mの長蛇の列を生んだ、あの歴史的な作品ですよ(浜崎あゆみが絶賛したせいなんだけど)。嗚呼懐かしいなあのミニシアター全盛期。いろんな映画が入ってきて、よりどりみどりだったよね。あの頃はよりどりみどりだなんて微塵も感じてなかったけどね(人は常に不満を抱えて生きているのですね)。


これ、べつにわたしは好きな作品じゃないんだけどね、一応一時代を築いた作品なのに、周りがあまりに知らない知らないと言うものだから、「なんでなんだ!!」とついつい思ってしまったわけだ。「アメリ」「メメント」「ヘドウィグ」の3本を知らずしてあの時代を語ることはできない。結局、映画ってサブカルなんだよね。射程範囲が狭いのは分かり切っていたはずではないか。こんなことは今更言っても始まらない。


さて、いま映画ファンの中で、滅茶苦茶評価されている役者がいるのはご存知でしょうか。そう、それが森山未來。「モテキ」に始まり「苦役列車」の怪演、そして素晴らしいに決まっている「北のカナリアたち」が控えています。北カナの生徒のキャスティングも話題だよねえ。だって森山未來に宮崎あおい、満島ひかりに松田龍平、でもって小池栄子と勝地涼ですよ。こんなキャスティング二度と不可能なのではないか。うーん凄い。誰がこの演技バトルを勝ち抜くのか今から興味が尽きない。わたしなら森山未來と小池栄子の連番押さえておくね。この面子の中でとうとう小池栄子の実力が全国区にさらされてしまうわけですなあ、ああ楽しみだ。


閑話休題。森山未來だった。そんな快進撃の中で、ロック・ミュージカル「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」ですよ。あーた、そりゃあもう凄まじかった。勢いのある昇り途上の役者はここまで凄いのかと、ちょっと鳥肌まで立ちましたね。わたしは映画版をさして好いてないので、簡単に映画版越えちゃったねの賛辞を送ることができます。


というか、なにこれ完全に別もんじゃんか。ベルリンの壁を福島隔離の壁に変えたら、ストーリーラインに潜む主題がまったく異質なものになってしまうじゃないか。それ了解の上での脚色なら、そうとうなやり手だなあ大根仁。ジョン・キャメロン・ミッチェルのヘドウィグはあれで完結しているのだから、あれをそのまま日本人がやったって勝てるわけがない。3.11以降の未来の日本に舞台変更したのはかなりの賭けだけど、絶対それで日本人が演じる意味が生まれたと思う。


しかし、このミュージカルは放送禁止ですな。福島隔離&後遺症もさることながら、森山くんの怪演があまりにあまりなんで、こんなもんはあーたその場限りのものでなくてはいけません。記録媒体に残しちゃいけない。逆にわたしは彼の怪演を見て、彼の将来が心配になりまたよ。彼の才能は常識の範疇を突き抜けてしまって、将来ワイドショーにお世話になってしまうような俳優さんの仲間入りをしてしまうのではないかと。いや、まあ森山くんにかぎってそんなことはないかな。いやしかし、あんなパフォーマンスを見せられるともしかして、、、


これロック・ミュージカルなんで、ステージ直近はスタンディングスペースになっていって、普通のライブのように楽しめるんだけど(因みにわたしもそこにいた)、森山くん、そのスペースにまさかのダイブですよ!! それも2度も!! いやね、これ相当ビックリなことなんですよ。だってスタンディングスペースのお客さんってほとんど女性なんだもの。非力な感じのね。そんな女性ばかりの別にぎゅうぎゅうになっているようなスペースでもなんでもない空間に彼は飛んでくるのね。バチコーンと飛んでくるの。


あれ、わたしが見た中でも1,2を争う暴挙だと思うなあ。ミドリの後藤さんがライブフロアの天井からダイブしてたけど、それだって客でぎゅうぎゅうになってるスペースにだからね。こんなスカスカの女性しかいないような客層によく飛んでいけるなあ。あの客層では絶対森山くんの体重を支えられるわけないよ。床に激突→大怪我の直行便だよ。でも彼はそうならない。もってるなあ。客がもう必死でささえて落とさない。いやあちょっとビックリしてしまった(スカスカといっても普通のロックのライブに比べての意)。


スガシカオの訳詞は騒音でまったく聞き取れなかったけど(つまりミュージカルとしての主題は文学的には理解できなかったんだけど)、それでもこの舞台が示す方向性はよく分かったんだよね。それすなわち森山くんのパフォーマンスにつきるんだよ。もう凄い身体能力なんだよね。暴れる暴れる。なぜあんな高いヒールであれだけ暴れることができるのか。アドリブが多かったけど(ハプニングも多いし)、よくグダグダにせずにやりきってるよ。歌と笑いと感情表現、すべて森山という一個人から発せられていて、なにこのポテンシャルと、いやホント舌を巻いた。


そういえば「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」って、これで6回目の再演らしいけど、驚くことにスタンディングスペースを設けたのはこれが始めてなんだそうな。この選択が本作を新しい次元に昇華させた可能性はある。だって、そもそもこれ舞台というよりライブだったもん。主題で空間を満たし、感情を客と共有するのに、ライブという方法論ほど都合のいいものはない。問題は、ライブは演者のパフォーマンスでどっちにも転んでしまうということだろう。それは敏感なほどはっきりと出てしまう。だから怖い。その手法を用いて見事に成功させてみせた森山未來×大根仁の両名恐るべしというほかない。(おわり)