月明かりの下、義朝が乗って来た馬の手綱を取る。
「1人で来たのか、義朝?」
「いや…」
「ふん…、やっぱりヤツが何処かに控えているのか」
清盛が当たりをキョロキョロと見渡す。
人影は見えない。
「お前こそ1人で来たのか?あの控え目な……、盛国…だったか…、一緒では無いのか」
「義朝と二人で逢うのに何故家来を連れて来ねばならない?邪魔なだけではないか!逢瀬を邪魔するそんな無粋な輩は平氏にはおらぬ」
清盛はぷくっと鼻を膨らまし、そこらに潜む者に聞こえるように話す。
「ふっ…、妬いておるのか」
「やっ…、妬いてなぞ…っ…」
「ん?」
月明かりを映す美しい瞳が悪戯っぽく輝く。
その瞳にぼぅ…と魅入ってしまう。
「清盛…?」
「そ、そうじゃ!妬いて何が悪い!?そなたは俺のモノだっ!」
「……そのように声を荒げるな。子供か、お前は。それに逢瀬などと…、お前と俺は密会しているのだ。解っているのか?」
クスクスと自分を見つめて笑う義朝のなんと可愛らしい事か。
清盛は可愛い…の言葉をグッと飲み込んだ。
(可愛いなんぞとほざいたら、また頭を叩かれかねんな)
「清盛…、もう帰るぞ。次に逢うは……」
「次に逢うは…?」
清盛は目を輝かせて義朝を見た。
「分からぬ」
「へ…?」
「ではまた、な…」
ふっと笑い義朝は馬の手綱を引きながらその場を立ち去ってゆく。
「よ、義朝っ…!気を付けて……」
帰れよ、と言い終わる前に何処からか正清が現れて、義朝に付き従う。
チラリと正清が清盛を伺うその眼は鋭く光っていた。
「正清め…!この俺を牽制するか……!」
忌々しく辺りに生える草を蹴散らしながら、義朝の姿が見えなくなるまで清盛はその姿を見送っていた。
続く