みなさんこんばんは。
たまです。

今回は、最近読んだ小説の話。

佐藤多佳子先生の『明るい夜に出かけて』という小説を手に取ったところ、
物凄い没入感ですっかり読み耽り、あっという間に読み切ってしまいました。
久々に出会った、読み終わるのが惜しい本でした。

 


「明るい夜に出かけて」は、ジャンルとしては青春小説。
ラジオ好き男子大学生の主人公を軸に、個性的な面々が時に快活、
時に陰鬱な青春ドラマを織り成します。
王道たるボーイミーツガールの形式でありながら、物語の根幹は芸人の深夜ラジオ。
実際に放送されていた「アルコ&ピースのオールナイトニッポン(ANN)」の内容や
番組の状況が、登場人物を翻弄します。

主人公を含めて登場人物のクセが強いので、序盤はなかなか感情移入が
できなかったのですが、各個の思考や行動原理が描写されるにつれて
バラバラだったパズルのピースが繋がっていくような爽快感があり、
最終的にはそうでなければいけなかった理由で埋め尽くされていました。
「何でそうなってしまうんだ」というもどかしさが、いつの間にか
絶妙の下ごしらえに変わっている不思議な感覚。
敢えて陳腐な言葉で、"痛快" という感想を抱きました。

ヒロインの佐古田の描写がやはり目を引きました。
美人でも可愛いという設定でもなく、発言や振る舞いも奇抜なのに、
こういう子がいたらいいなぁと思ってしまいます。
今まで読んできた小説の中でも、とりわけ印象に残ったヒロインでした。

また、朝井リョウ先生による解説も、極めて読み甲斐のある内容でした。
主人公を評し、「こちらが勝手に応援しよう、愛そう、なんて思っているうちに
いつの間にかひとりで自由に歩き出していってしまうような不思議な逞しさがある」
としているのは、けだし慧眼だと思います。
この作品の枠を超えて、自分の読書感にも訴えかけられる内容でした。

こうして今書き記している内容が、私の中にある読後感をどれほど表現できて
いるのか、自分でもよくわかっていません。
ただ、何かしら残しておきたいと思うような作品であったことが、後からわかれば
よいのかなと思います。


感想は以上。
ここからは蛇足。

 




佐藤多佳子先生は、私が好きな作家さんの一人です。
出会いは高校生の頃で、模試の現代文の問題として佐藤先生の小説の一節が登場。
その一節があまりにも面白くて、私は試験を忘れて読み耽り、試験後に作者を
調べて模試の帰り道には著書を買って帰りました。
その時に読んだのが「サマータイム」。登場人物に強烈な感情移入を誘われ、
まるで知人の日記を読んでいるような感覚になったことをよく覚えています。
次に読んだ「黄色い目の魚」も強烈な読後感。あまりに面白かったので、
その小説のタイトルから自分のメールアドレスを作りました。
少し時間が空いて、「一瞬の風になれ」を読んだのは20代になってから。
全3冊を今回同様にあっという間に読みきりました。

まったくの偶然ではあるのですが、佐藤先生の小説には私が応援していた
サッカーチーム・ジュビロ磐田が頻繁に登場します。「黄色い目の魚」では主人公が
磐田の選手の姿を何枚も絵に描き、「一瞬の風になれ」では主人公の兄が
ジュビロ磐田に入団。主人公がヒロインとのデートでヤマハスタジアムにサッカーを
見に行く様子まで描かれています。そういった経緯から親近感を抱くには十分で、
私は好きな作家さんとしてしばしば佐藤先生を挙げていました。

ただ、佐藤先生は一般小説だけでなく児童文学なども幅広く手がける作家さん。
一般小説は頻繁に書かれず、また私も違う小説家さんに熱を上げたりしたため、
「一瞬の風になれ」以降は佐藤先生の小説は読んでいませんでした。
今回佐藤先生の著作に触れたのは、実に10年ぶりでした。
それだけ久しぶりだったのに、読んでいて「あぁ、佐藤先生の小説だなぁ」と
思わせられるのは、なんとも凄い経験だと思います。

ここ最近、ずっと歴史小説ばかり読んでいました。
志向から外れてここまで楽しめたので、やはり偏りは良くないなと改めて
思った次第です。


今日は以上です。