今回は、異体字、俗字に関することおよびそれらを駒字に用いる際の私の考え方について書きます。私は文字の専門家ではないですし、知識は人並み以下という自覚がありますので、何らかの決まりを設けておかないと文字を書くに当たって支障が出るからです。

あくまでも私の個人的な考え方であり、目的が「不正な文字や読めない文字を書かない為」であることに留意して、以下を読んでいただけるようお願いします。

 

最初に異体字の定義についてです。私が知る限り、異体字に関しては様々な意見があり、現在、明確な定義づけはされていません。とりあえず、ネットで拾ってきた文章をまとめたものを掲げると、「一般に異体字とは、常用漢字とは点画の構成が異なるが、意味・発音が同じで、正字と同様に通用する漢字を言う」ということになります。

また、「俗字は正字ではないが、世間一般に用いられている漢字であり、異体字に含まれる」

という定義もありました。

 

私の個人的な定義は、「異体字とは、常用漢字とは点画の構成が異なるが、五體字類などの字典に収録されている文字および能書家の作品や手本などに書かれている同じ意味・発音の文字」であり、「俗字とは、まだ教育体制が整っておらず識字率が低かった時代に、誤った形が世間に広まり定着してしまった文字」です。

 

異体字の具体例を挙げると、例えば、巻菱湖や日下部鳴鶴の書く「歩」です。先日の連載に載せた通り、菱湖の歩は、現在、使われている歩とは点画の構成が大きく異なり、現在、この形は専門に習っている人以外は書かないと思います。鳴鶴の歩は、山の下に少を書きますが、こちらは異体字検索で表示される文字です(機種依存の可能性がありますので、すべてのPCやスマホで検索できるかは分かりません)。菱湖は「幕末の三筆」、鳴鶴は「明治の三筆」とそれぞれ評されるほどの能書家です。二人の文字は毛筆の長い歴史に裏打ちされた文字であり、官公庁などで手本として採用されるほどでした。しかし、一つの文字に何通りも書き方があるのは好ましくないという理由で、常用漢字が定められたために使われなくなったものと私は理解しています。

 

俗字の具体例を挙げると、「さいとう」という姓の「さい」です。私のPCでは、活字体で、「斉」、「斎」、「齊」、「齋」、の四体が出て来ます。ところが、戸籍登録上では「さいとう」のさいは50種類以上あるそうです。何故、そんなに沢山の「さい」があるかというと、「戸籍登録を行った本人が、自分の姓に使う文字を正しく覚えておらず、誤った字を書いたため」なのだそうです。

 

上記を踏まえて、私の考えを要約するとこうなります。基本的に楷書体についてのものです。

①異体字とは、伝統的に使われて来た文字だが、常用漢字が定められたことにより使われなくなった文字であり、書作品や駒字に使用することに問題の無い文字

②俗字とは、書き手のミスで書かれた文字が世間一般に定着してしまったものであり、書作品や駒字に使用してはならない文字

 

私にとっては俗字=誤字です。ですので、昭和初期から明治以前くらいの時代に使われていた俗字を引っ張って来て使うという発想はありません。個人的な希望としては、他の人にもそうして欲しいと考えていることです。

 

しばらく前に、「月は何処にいったのか」というタイトルで2回投稿しています。どちらも、「将(將)」の字が不正な書き方になっていることの指摘でした。

私としては、本当は書きたくなかった内容です。つまらぬ諍いの元になりかねない内容でしたし、他人のミスをあれこれ指摘するのは現在の駒字についてだけでたくさんです。それでも、敢えて文章にしたのは、さすがにこれは見過ごせないという気持ちが強かったことの他、もう一つ、理由がありました。

何かというと、問題と思った文字を勤務先の人たちに見てもらった結果です。見た全員(と言っても7人ですが)が否定の答えをくれました。「何これ?」、「こんな字があるの?」が共通の反応で、二人だけ正解(?)しましたが、これは私が将棋駒を作っていることを知っていたから推理できたのだそうです。「これが将の字って無理があり過ぎるでしょう」と言われましたが、この考え方が普通であり的確な見方だと思います。推測でものを言ってはいけないとは言いますが、既に知っている人を除けば、ほぼ100%同じ答えが返ってくることでしょう。

 

私は、錦旗、清安などの成桂について、「記号とみなす」と書きました。これらも俗字の範疇だと思いますが、既に文化として定着しているものですから、もし既存の駒書体を使うときは、それに従います。但し、自分が新しく作る駒書体については使用しない方針です。

 

以上、分かりにくい文章だったり、誤った解釈をしている部分もあるかと思いますが、自分なりの基準をはっきりさせておかないと良い駒が作れないという気持ちからです。

おかしいと思うことがあれば、何なりとご指摘ください。きちんと調べ、誤りがあれば謝罪と訂正を行います。