初回公開日:2017年2月21日
凡そ覇気の欠片もない一隊が、目的の地へと進んで行く。
いよいよ間近に、大元帝国の都…大都を囲う外郭が見えてきた。
等間隔に三つの門が並ぶ強固な城壁は、南の端まで八里程は続こうか…
俺は改めて、この大国の威厳を見せ付けられたような気がした。
東の玄関口に当たる城門から、大都の街中に入ると、遠く正面に見える金色に耀く殿閣。
俺は改めて、この大国の威厳を見せ付けられたような気がした。
東の玄関口に当たる城門から、大都の街中に入ると、遠く正面に見える金色に耀く殿閣。
嘗て、フビライは此処を銀で満たしたという。
今は、あの徳城府院君キ・チョルを兄に持つ、皇后キ氏の居所でもあるのだろうか。
軈て皇城の中に入ると、金色に耀いて見えたその殿閣には、見事な細工が施されている事を知った。
その殿閣と大都の要である正殿を、草地が取り囲む。
この任務さえ遂行すれば、俺は自由の身。
これもまた、Mr.Darcy氏と盛り上がった構想をお話に仕立てたもの。タイトルは、Darcy氏に付けていただきました。
今は、あの徳城府院君キ・チョルを兄に持つ、皇后キ氏の居所でもあるのだろうか。
軈て皇城の中に入ると、金色に耀いて見えたその殿閣には、見事な細工が施されている事を知った。
その殿閣と大都の要である正殿を、草地が取り囲む。
その上に立ち並ぶ幾つかのゲルは、ここに住まう主を、大草原を支配する皇帝である事を誇示していた。
嘗ては王族の住まいだったというゲル。
嘗ては王族の住まいだったというゲル。
今では客用として、その姿を残すのみ。
我等、大君を出迎えるがために高麗より参じた一行は、その一つに通されて報せを待つ。
今頃、江陵大君は皇后キ氏との謁見を済ませている事だろう。
後、僅か…だ。
後、僅か…だ。
この任務さえ遂行すれば、俺は自由の身。
やっと、皇宮から離れられる。
迂達赤としてのこの七年を、終わりに出来る…
メヒ…メヒよ。
メヒ…メヒよ。
やっと、お前の元に逝ける。
お前に…逢える。
「テ、テジャン!どちらへ?!」
慌てるチュンソクを振り切って、外に出た。心地の良い風に背を押され進んで行くと、大きな池を対岸へと渡る橋に突き当たった。
ここならば…死ねるか。
これは、皇宮と離宮を繋ぐ橋であろう。
ならば…あれに見えるは、瓊華(けいか)島。この池は、太液池(たいえきち)という訳か。
俺は誘われるがままに、橋を渡った。
「テ、テジャン!どちらへ?!」
慌てるチュンソクを振り切って、外に出た。心地の良い風に背を押され進んで行くと、大きな池を対岸へと渡る橋に突き当たった。
ここならば…死ねるか。
これは、皇宮と離宮を繋ぐ橋であろう。
ならば…あれに見えるは、瓊華(けいか)島。この池は、太液池(たいえきち)という訳か。
俺は誘われるがままに、橋を渡った。
穏やかな風は、水面を揺らし、俺を導く。
ここならば…俺の死身を、隠してくれようか。
ここならば…俺の死身を、隠してくれようか。
メヒの処へと…運んでくれようか。
俺に自由を、与えてくれるであろうか…
その時、ふと…久しく聞く事のなかった、女人の笑い声が聞こえてきた。暫し聞こえたその声は、止むと同時に、次は軽やかな靴音となって、徐々に俺に近付いて来る。
「何をしておる。そこから落ちれば、命はないぞ?」
聞き慣れない、高麗のそれではない言葉。
俺に自由を、与えてくれるであろうか…
その時、ふと…久しく聞く事のなかった、女人の笑い声が聞こえてきた。暫し聞こえたその声は、止むと同時に、次は軽やかな靴音となって、徐々に俺に近付いて来る。
「何をしておる。そこから落ちれば、命はないぞ?」
聞き慣れない、高麗のそれではない言葉。
凛とした、華やかさを纏った声だった。
しかし、その口調からは、常人にはない高貴な威厳と共に、慈しみを感じた。
「其方…高麗の者か。」
次に己が耳に届いたは、高麗の言葉。
しかしここは、離宮に通じる橋の上…
「其方…高麗の者か。」
次に己が耳に届いたは、高麗の言葉。
しかしここは、離宮に通じる橋の上…
俺は心当たりのある人物を思い浮かべていた。
「某は、高麗迂達赤隊、隊長のチェ・ヨン…」
振り返った先には、俺の予想に反して質素な身形の女人が立つ。
「某は、高麗迂達赤隊、隊長のチェ・ヨン…」
振り返った先には、俺の予想に反して質素な身形の女人が立つ。
しかし、風に乗りこちらに薫るは伽羅の薫り…皇后キ氏が、好んで纏うという希少な香。
貴族の平服のような質素な衣に、結わずに肩まで下ろし靡く黒髪。
貴族の平服のような質素な衣に、結わずに肩まで下ろし靡く黒髪。
その黒髪には、唐桃を象った銀の髪飾り…中心には、真珠であろうか。品の良い造りである。
質素でありながら、しかし隠しきれない高貴な色香。
質素でありながら、しかし隠しきれない高貴な色香。
やはり、この女人は…
俺の思う通りならば、皇后キ氏その人である。
俺の思う通りならば、皇后キ氏その人である。
礼を欠いてはと、俺は思案に暮れ、悩んだ末に兎に角、拝をと、それをしようとしたその刹那、目の前の高貴な女人は、片手を上げ、俺を止めた。
訳有り気な視線を送る、高貴な女人のその仕草に、俺は全てを理解し、飲み込んだ。
「委細…承知。」
俺の言葉に、満足気に微笑む女人。
訳有り気な視線を送る、高貴な女人のその仕草に、俺は全てを理解し、飲み込んだ。
「委細…承知。」
俺の言葉に、満足気に微笑む女人。
唯、俺は頭を下げ、その場を後にした。
踵を返す、その一瞬。
華奢な肩越し垣間見えた、遠目からでも判る背高の人物。儒服では誤魔化しきれない、武人の持つ鋭い眼光を俺に向けた人。
全ては、ここから始まった。
2020年12月8日再掲載
2024年6月7日加筆
これもまた、Mr.Darcy氏と盛り上がった構想をお話に仕立てたもの。タイトルは、Darcy氏に付けていただきました。
タイトルどおり、お話は続くはずだったんですけど…ね