――アカン。ちゃンと言わなきゃ。今日は流されたらアカン・・・
この部屋の賃貸契約をし、週に3回来るようになって約1カ月が経った。
じつは一昨日の木曜日、我が家の固定電話に匿名の電話が入った。
私は例によって深夜の帰宅なので、妻がその電話を受けた。
電話の用件は、「お宅のご主人は浮気をしている。そして相手は同級生だ」といった内容で、電話の主は自分の名前も浮気相手の名前も言わずに切った。
そして昨夜、といっても今朝未明だが、妻は私の帰宅まで起きて待っていて、私が帰るなり電話の件を問いただした。
――とうとう来たか・・・・
私は泥酔を装って(実際にだいぶ酔っていたが)自分の部屋に入り、追い縋る妻には“眼が覚めたら詳細を話す”と言って振り払い、布団を被った。
――どうする?
正月に別れ話が出た後に眞知子サマから深夜に呼び出された時は、あれだけ自分の中で振り切って決心したつもりだったのに、眞知子サマのナミダを見た途端、私の決心も何もかもあっけなく崩れてしまった。
しかし、前回は“ただ何となく感づいた”程度だったが、今回は状況がかなり違う。
――しかし・・・
妻とはもう1年以上もマトモな会話をしていない。
自宅で食事をするのも週に1回あるかどうか、かなり前から夫婦と言うよりは単なる同居人になっている。
娘が生まれてから“妻”から“私の娘の母”に変わり、そして夜のコトも一切拒否されて何年にもなる。
私はカネ、つまり生活費を自宅に運ぶダケの存在のようだ。
だから、最近では私が居ようが居まいが、特に気になるコトも無いようだった。
――眞知子サマは私を必要としている。
眞知子サマは自身の時間が許す限り、いつも私を求め、そして必要としている。
オトコの幸せとは、相手から必要とされるコトじゃないのか、と思ったりする。
――子供は?どうする?
結論は、実はもっと前から出ていた。
私は両親が共働きで、幼少時から独りぼっちで遊ぶ日々を送っていた。
家族旅行も殆ンどせず、自宅でTVを見るか、ゲームをする休日ばかりだった。
今もし離婚すれば、きっと私よりも酷いコトになる、そう思った。
それから、昼前に目覚めた私は、妻が買い物に出るのを見計らって逃げるように家を出た。
――今日は秘密の部屋に行く日、でも、今日で終わりにする、きっと・・・
そう心に誓ってこの部屋に入り、そして眞知子サマの到着を待っていた。
『ふうン。電話、ねぇ。』
私はこれまでの経緯を正直に話した。
『じゃあ、どっち? どっちを選ぶのヨ』
――言え!言うンや!今度こそ別れるって。
しかし、眞知子サマに見つめられた私は体が動かず、口を開くことすら出来ない。
『あ、リン。ひょっとして、アタシから逃げられると思ってるの?! バカねぇ。うふふ♡』
――え?なンで?
無言で見上げる私に、眞知子サマは悪戯っぽい笑顔で、そして楽しそうに話しだした。
『だ・か・ら。リンには選択権も拒否権も無いの、忘れたの?』
――ど、どういうコト???
『あ、まぁだ判ってないだぁ!』
眞知子サマの表情がだンだン険しくなってきました。
『リ・ン。リンのお父さンって、株式会社◯◯◯にお勤めよネ。◯◯部の元課長サンで、今は常勤嘱託だったっけ?』
――???
『お母さンは、あ、今は専業主婦だったわネ。娘サンは・・・』
――まさか?
私は年末にタクヤから聞いたコトを思い出した。
「待ってください!それじゃタクヤの・・・」
『ナニ?』
――しまった・・・
『タクヤがナニ?』
「い、いや、なンでもありませン」
『あのボケ、また いらンコト喋りやがったか!まだ足らンみたいやナ・・・』
眞知子サマは私から視線を逸らし、親指のツメを噛みながら物凄い形相で、しかし小さな声で呟いた。
ところが、しばらくすると急に満面の笑みになり、そして甘えたような口調に変わった。
『だ~いじょうぶ!リンにはそンなコトしないカラ』
――???
『ほら、コレ見て♡』
眞知子サマは自分の携帯を私に見せた。
――あっ!
携帯の画面には、私の写メが表示されていた。
そこには、ウィッグを着けておすわりをしている姿が・・・
『ほら、これも。ほら、ほら、ほら!』
次々と変わる写メはすべて私の痴態だった。
――いったい、いつの間に・・・
『どお? これでもアタシから逃げられると思ってるの♡』
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それから数時間後、私は手足を縛られて眞知子サマに責められていた。
胸と○○○には油性マジックで、「眞知子」と大きく書かれている。
どうやら完全に眞知子サマの所有物になったようだ。
『あぁっ!いいわぁ!やっぱりリンがイイのぉ!』
紅潮した頬と額には、大粒の汗が滴っていて、右手には携帯が握られている。
『ほぉら、カラダ中に落書きされて、アタシにこンなコトされて喜ンでる姿も撮ってあげるぅ♡』
私は断続的に鳴るシャッター音のもとで、堪え難い屈辱と、そしてそれを上回る痺れるような快感に身を任せてた。
――これからどうなるンだろう・・・
何度目かの絶頂のあと、ベッドで不安そうに膝を抱えている私を見て、眞知子サマは後ろから優しく抱きしめて囁いた。
『だ~いじょうぶ。リンが家を出られるアイディアがあるから♡ うふ。うふふ♡』
つづく