
もっと、お客さんを楽しませる話ができたらな。
そうため息をついて、予約表を閉じました。
新規のお客さんは来てくれるんです。ホットペッパーから予約が入る。初めてのお客さんが来て、施術をする。帰りには、「スッキリしました」と言ってもらって、笑顔で「ありがとうございました」と見送る。
ただ、一週間経っても、二週間経っても、その人からの2度目の予約は入らない。翌月になっても、予約表にその人の名前はない。代わりに、また新しい人の名前が入っている。その人を施術して、また見送る。そして、また来ない。
多分、予約してくれるってことは、掲載写真の雰囲気も良かったはず。正直、施術にも自信がある。じゃあ、なんでリピートしないのか?ここを考えるのが本当に怖かった。
だって、「施術者の私」に魅力がないからだと思うから。
最初はいいんです。「どちらからいらしたんですか?」「お子さんは?」そんな世間話で質問できる。でも、だんだんと聞くこともなくなってきて。施術室に、BGMだけが流れている。
シーン……。
その数秒が、私にはものすごく長く感じました。
何か喋らなきゃ。このままじゃ気まずいよね。何の話をすればいい?仕事?家族?趣味?
「今日はお休みなんですか?」
「はい」
……。
終わった。
また、シーン……。
「あぁ、もう……」と思う。
もっと会話が上手な人だったら、ここから自然に広げられるんだろうな。もっと明るい人だったら、こんな空気にならないんだろうな。私は、何を話せばいいのかもわからない。だから、お客さんもつまらないんだろうな。そんなことを考えながら、いつも施術していました。
お客様が帰ったあと、さっきまでの会話を全部思い出すんです。
「仕事のこと聞かないほうがよかったかな」
「最後、ちょっと急いで帰った気がする」
「やっぱりつまらなかったかな」
一人で、ずっと反省会。
そして数週間後。その人から予約が入らない。すると、頭の中で全部つながるんです。「やっぱり、あの接客がダメだったんだ」って。
つまり、私が選ばれなかった。

SNSを開けば、楽しそうなサロンオーナーさんが出てくる。お客さんと笑顔で写真を撮っている。「今日も楽しい時間をありがとうございました♡」なんて書いてある。
コメントには、「また来月お願いします!」「今日もいっぱい話せて楽しかったです!」そんな言葉が並んでいる。
いいな。こういう人だから、お客さんもまた会いたくなるんだろうな。
明るくて。話が上手で。人懐っこくて。初対面の人とも、すぐ仲良くなれる。私には、全部ないものに見えました。
施術は勉強すれば上手くなれる。
でも、人間そのものはどうすればいいんだろう。つまらない私を、どうやって直せばいいんだろう。そんなことまで考えるようになりました。
だから、勉強しました。
リピート率を上げるカウンセリング。好かれる接客。質問の仕方。会話の広げ方。相槌。褒め方。次回予約へのつなげ方。自然に商品をおすすめする方法。
これまで施術を勉強してきたように、接客も勉強すれば変われると思ったんです。
でも、お客さんを前にすると、また怖くなる。
今、何聞けばいいんだっけ。
このタイミングで聞くの変じゃない?
このあと商品につなげる?
次回予約って、いつ聞けばいい?
今度は、正しく接客できているかが気になって仕方なくなりました。
家に帰る頃には、ぐったり。
好きで始めたサロンなのに。
予約が入ると嬉しかったはずなのに。
スマホに新規予約の通知が来ると、嬉しいより先に、「今度はちゃんと話せるかな」と思うようになっていました。
何度も思いました。
施術は好き。もっと上手くなりたいとも思う。お客さんが、「身体が楽になった」と喜んでくれたら嬉しい。だから、辞めたいわけじゃない。
でも、人と話すのが怖い。
嫌われるのが怖い。
断られるのが怖い。
もう来てもらえないのが怖い。
だったら、そもそも接客業なんて選ばなければよかったのかな。
私みたいな人は、サロンなんてやっちゃいけなかったのかな。
そんなことを、何度も考えました。
それでも、諦めきれませんでした。
「無理に喋らなくてもいいから、楽なんです」
え?と思いました。
その言葉が、ずっと頭に残りました。
だって、私がずっと、「直さなきゃいけない欠点」だと思っていたものを、その人は、「楽」と言ったから。
じゃあ。今まで私が怖がっていた、あの沈黙って、なんだったんだろう。
お客さんって、本当に私の面白い話を聞きに来てるんだろうか。
私は、何か勘違いしたのかもしれない。それから、トークスキルを学ぶのをやめました。
その代わりに、人がまた「ここに来たい」と思う法則に出会ったんです。
沈黙が悪いわけではないことも、教えてもらいました。
そして、それを実践していくと、少しずつですが、サロンに立つことが楽になりました。お客さんとの時間も、以前とは違うもののように感じます。
私はずっと、もっと魅力のある人にならないと、お客さんには選ばれないと思っていました。
もっと明るく。
もっと話し上手に。
もっと自信を持って。
人気のサロンオーナーみたいにならなきゃ。
でも、少なくとも私は、別人になったから変わったわけではありませんでした。
見ているところを、少し変えただけでした。
あの頃の私は、予約表を開くのが怖かった。名前がないたびに、自分が否定されたような気持ちになっていました。
「どうせ私なんて」そう思いながら、それでも次のお客さんが来れば、笑顔でドアを開けていました。
もし今、同じように、施術には自信があるのに、なぜかリピートされない。
お客さんとの沈黙が怖い。
物販を勧めると、売りつけているような気がする。
お客さんが帰るたびに、一人反省会をしてしまう。
そして、「もっと魅力のある人間だったらよかったのに」と思っている人がいたら。
私が知ったことを、ここに置いておきます。
▼ 私が接客で勘違いしていたこと
話し上手じゃなくても、
お客さんに選ばれるようになった理由
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