男(僕の足が地面から離れようとする瞬間、僕はもう一度、狙いを定めた彼女の姿を68階のビルの屋上から見下ろした。そして静かに目を閉じた・・・。1・・・2・・・3・・・)

男(米粒ほどの彼女の頭上に、僕の体が命中する確率は50%と見積もっていた。だがしかし、僕の体は意外にも、ものすごい速さで落下していく・・・)

男(もしも彼女の上に落ちることができたら、彼女は僕の下で永遠の眠りについてくれるに違いない。そして僕を優しく抱いたまま、二人はあの世への旅路に着く・・・。だがその確率も、今となっては限りなく0に近い)

男(体がバラバラに千切れていく・・・。内臓をどこかに置いてきてしまったみたいだ・・・。頭だけが重力に導かれて、まっすぐと彼女へ向かって落ちてゆく。風の音しか聞こえない・・・。)

男(目を開くんだ・・・彼女はどこだ。・・・だめだ。もはや僕の目は地上34階にとどまったまま、僕自身を見下ろしている・・・。それならば今落下していくこの物体はなんだ??・・・僕の頭か?僕の心臓か?僕の気持ちか・・・?それとも・・・・・・)

(グシャッ・・・)

女「!?キャーッ!!!」

イイジマタカコ作「10秒の夢」

出演 入江崇史・雨蘭咲木子